統合報告書の刺さるトップメッセージとは(前編)

統合報告書のコンテンツの中で最も重要とされ、閲覧度合最上位はやはりトップメッセージでしょう。このブログの中でも作りこむべきコンテンツとして第1番に挙げました。そのことに異論は少ないと思います。では、どうすれば読者に刺さるトップメッセージとすることが出来るのでしょうか。答えは一通りではないでしょうが、順を追って考えてみたいと思います。前編では、「①トップメッセージが最重要コンテンツである理由」「②高評価のトップメッセージはどこに違いがあるのか」を、後編では「③刺さるトップメッセージを作る上での実務面でのポイントとステップ」を考えていきます。


①なぜトップメッセージが最重要コンテンツなのか?(前編)

  • 株主の付託と社会の期待に関する経営者の考えを示すコンテンツ
  • 自由演技の筆頭ページ
  • 会社のトップの“顔”が見える究極のイメージ戦略コンテンツ

②評価の高いトップメッセージは何が違うのか?(前編)

  • 自分の言葉で語っている
  • 人柄が現われている
  • エピソードが書かれている
  • 課題認識が示されている

③刺さるトップメッセージを作るには?(後編)

  • 双方向コミュニケーションのスタンス
  • 実務者としてのステップとポイント

目次

①なぜトップメッセージが最重要コンテンツなのでしょうか?

企業も組織としてトップが引っ張る訳でリーダーの語る内容を知りたいというのは当然ですが、それはどういうことか?統合報告書は、“社会課題解決のための価値創造を通じた企業発展ストーリーを、リスクマネー提供者である投資家・株主や各ステークホルダーに示すことで、自社へのサポーターを増やすための媒体”と定義づけられると思いますが、正に経営を語ることが求められます。経営者には株主の付託とステークホルダーの信頼に応えて企業を発展させる責任があり、

  • 社会のためにどのように企業を発展させるのか
  • 企業価値をどう向上させるのか
  • 資本をどのように配分するのか

などを説明しなくてはなりません。統合報告書は冊子全体でその目的を担うものと言えますが、トップメッセージは株主の付託と社会の期待に関する経営者としての説明責任を最も端的に果たすべきコンテンツであることが、何と言っても一番の理由です。

また、統合報告書には、IFRS財団の国際統合報告フレームワークや、経産省の価値協創ガイダンスをはじめ、SSBJ、GRI、SASB等のサステナビリティ関連の基準など、参照すべき、ある意味”お作法”があり、いわゆる“規定演技”に沿って示すべきコンテンツがあります。一方、トップメッセージは体裁や記載すべき項目の決まりはなく、経営トップが自分の思いや経験、大切にしていること、方針など自由に語ることができ、“自由演技”の筆頭に当たるページと言えます。一般的には文章形式で書かれているケースが多いですが、図表を多用しても構いませんし、当該年度の象徴的なイメージ写真などを使ってもOKです。経営トップの語り口を通じ、いかに上手く企業価値向上への納得を得られるかが勝負であり、形式に制限はありません。要は企業活動への支持を得るための自由広報のページです。

そして、“顔”が見える一番のコンテンツでもあります。経営者の写真が載っていないトップメッセージはありません。各社、どこで撮影したらよいか、どんな表情やポーズのものを採用するか、メーカーであればユニフォーム姿のものを使うケースもあるでしょうし、事業の現場や企業ロゴを背景にしたりという選択肢もあります。経営トップが経営を語る自信、将来発展への期待を感じさせる姿、社内の雰囲気を垣間見るような明るい“顔”によって、外部者は安心を得ます。いわば究極のイメージ戦略の体現コンテンツと言えます。

②では、評価の高いトップメッセージは何が違うのでしょうか?

経営者自らが自身の言葉で語っている

やはり何と言っても、経営者自らが自身の言葉で語っているというのは絶対条件です。統合報告書の認知度と重要度の向上によって、さすがに事務方任せのものは少なくなっていると思いますが、トップの本気度と関与度によってかなりの差が開くのも事実です。トップ自身が全て執筆している企業もありそれが本来の姿でしょうが、超多忙な経営者がそこまでやっているケースは実際は限られているとは思います。とは言え、何を大切にし、最も言いたいことは何か、会社をどうしていきたいのか、何故そうなのか、どう実現するのかは、事務方では書き切れません。自分の言葉で語るということは、それらがしっかりと示されていることであり、評価の高いメッセージの起点はまずそこにあると思います。

人柄が現われている

2つ目は、人柄が現われているかどうかです。大手海外投資家のいくつかは、投資の意思決定を行うステップとして、最終的に経営トップとの面談を条件にしています。様々な事前分析の上で投資をするか否かは、経営トップと顔を合わせ、経営哲学や戦略説明を聞き、具体的施策の妥当性と執行への意思の強さ、リスクテイクの判断力、引き返すことのできる柔軟性など、総合的な人間力を見た上で、GO or NO GOを決めると言っていました。企業の最終的な経営判断や意思決定、戦略・施策の執行は、組織としてのルールに基づきなされるものですが、経営トップのリーダーシップは必須です。統合報告書のトップメッセージにおいても、投資家の投資決定のステップと同様、経営トップがどのような人であるかが分かる内容となっているものは、当然評価が高く、読んでいて引き込まれる面白さを感じます。

エピソードが語られている

そして、上記2つを示すものとして、エピソードが語られているという特長があると思います。特にそのエピソードが、ご自身の経験や大切にしていること、人柄が分かるものであり、言葉を選ばず言えば、人となりがさらけ出されているようなものは、やはりトップメッセージとして支持が集まっているのではないでしょうか。

課題が書かれている

さらに、評価が高いトップメッセージの要素として、課題が書かれていることが大切なポイントと考えます。多くのトップメッセージは、力強いトップの言葉が語られ、将来発展への自信や目標達成に向けた意思の強さ、計画上の順調な進展などが示されているケースが多く、時に眉唾の逆効果を生む場合もあります。企業経営において、全て順風満帆ということはあり得ません。どこに目指す姿との差異があるのか、その背景・理由が何で、課題は何なのか、それをどうしていくのかを経営トップとして真摯に示しているメッセージは、信頼性が高く、高評価に結びついていると思います。

今回は、「①なぜトップメッセージが最重要コンテンツなのか?」、「②評価の高いトップメッセージは何が違うのか?」について述べてみました。次回、「③刺さるトップメッセージを作るには?」に関して、考えてみたいと思います。

(了)

内田 泰(うちだやすし)

元機械・自動車部品メーカー IR・CSR室長
計3カ国15年の海外駐在後、2006年からIR・CSR部門の実務責任者を15年間担当
2016年に初の統合報告書を発行
WICI統合リポートアウォード 優秀企業賞(2016~2018)、優秀企業大賞(2019)
日本IR協議会 IR優良企業賞(2016)
Institutional Investors誌 Machinery部門 IR Professional 上位選出多数

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