前編では、「①何故トップメッセージが最重要コンテンツなのか?」と、「②評価の高いトップメッセージは何が違うのか?」 について、私見を述べました。今回の後編では、「③刺さるトップメッセージを作るには?」のテーマで考えてみたいと思います。
前編のポイントと後編のテーマは、以下です。
①何故トップメッセージが最重要コンテンツなのか?(前編)
- 株主の付託と社会の期待に関する経営者の考えを示すコンテンツ
- 自由演技の筆頭ページ
- 会社のトップの“顔”が見える究極のイメージ戦略コンテンツ
②評価の高いトップメッセージは何が違うのか?(前編)
- 自分の言葉で語っている
- 人柄が現われている
- エピソードが書かれている
- 課題認識が示されている
③刺さるトップメッセージを作るには?(後編)
- 双方向コミュニケーションのスタンス
- 実務者としてのステップとポイント
③刺さるトップメッセージを作るにはどうしたら良いのでしょうか?
答えは1つでもなく、また簡単ではないでしょうが、いくつかのポイントがあるのではないかと思います。経営トップ自ら執筆しているケースにもあてはまる部分もあるでしょうが、インタビューをベースに作りこんでいくパターンを前提に、事務方の視点・役割と出来ることを考えてみましょう。
一番大切なことは、双方向コミュニケーションのスタンスだと思います。企業サイドからすれば、伝えたいこと、分かって欲しいことは色々あると思いますが、外部から見て知りたいこと、納得したいこととの間でギャップがあることは往々にしてあります。外部目線を認識・確認した上で、発信側からのアピールポイントを整合させるという視点は、ベースとして持っておくべきところだと思います。つまり外部の関心事が何かは、ストレートに答えるかどうかは別にして、最初の重要な起点になるということです。
その上で、何を最も伝えるべきか、伝えなくてはいけないかのテーマの抽出が核心だと思います。例えば、経営者として大切にしていること、経営理念や経営哲学に関することを、トップとして最も伝えたいということであれば、それも大いにありですし、新中期経営計画の発表の年であれば、トップとして前中計の成果と課題、新中計で何を目指すのか、戦略・目標と施策内容等について、経営者の考えと解説が語るべきテーマとなるでしょう。その際にも一方通行ではなく、読み手側・受け手側を意識することは必要なスタンスであると思います。
では実務的にどう進めていったら良いか。以下、事務方として考えておくべきステップの一例を示します。
- テーマ設定のためのトップとの綿密な擦り合わせ
- 資本市場の重要関心事のピックアップ
- 社会課題とマテリアリティ、価値創造とビジネスモデル、企業価値向上とのコネクティビティの確認
- 当該年度に伝えるべきテーマ抽出と合意の考え方・前提
- 経営トップとして最重要と位置付ける課題と対応に関する説明を要請
- 経営者の人となりを引き出すトピックス・エピソードの依頼
- インタビュアの選定とインタビュー内容の決定
- 書き起こし文章の最終化
まず、トップと事前の打合せをしっかりと行うことが大切です。
当該年度のトップメッセージの重点フォーカス・テーマについて、外部目線も尊重した上でトップの思い・考えを第一に据え、擦り合わせと合意をしっかりとすることが最初のステップです。(ステップ1)
その際、フォーカス・テーマを決めるに当たってはIR部門のリードで資本市場の最優先の関心事のリストアップは必ずすべきでしょう。市場は何を知りたがっているのか、企業価値向上に向けての課題として市場が重視しているのは何なのかは、テーマ設定のスタートポイントです。市場の関心事はひとつでないとは思います。トップメッセージで逐次全てに答える必要はないでしょうが、最重要なもの、本質的なものについては、その関心事が市場から発出されていることの事実とその背景を念頭に何らかのコメントはするべきと考えます。(ステップ2)
そして、統合思考の中心である、社会課題と自社のマテリアリティおよびアウトカム、価値創造を実現するビジネスモデル、企業価値向上に結びつくロジックツリーという一連の重要項目のコネクティビティに関するディスカッションを通じ、経営トップの考えを確認し、引き出すというステップは大切です。統合思考の明示的意識の有無に関わらず、自社の価値創造によってマテリアリティにどう関わり、企業価値をどのような具体的施策で向上させていくか、経営者の見解を事前に確認することは意味があることと思います。(ステップ3)
その上で、トップメッセージのテーマ設定の考え方として、資本市場の期待すなわち企業価値向上への道筋が社会課題解決と自社のマテリアリティの実現に、価値創造という切り口でどう結びついているかをしっかり訴求することを一番に、当該年度のテーマの抽出・設定の合意につなげるべきと思います。統合報告書の意義と目的、中心テーマは、統合思考経営の実践と実相の開示だからです。(ステップ4)
次に実際のテーマ設定について、上記のとおり市場の関心と企業サイドからのアピールポイントの擦り合わせは意識すべきですが、やはり経営者として資本市場やステークホルダーに最も伝えたいこと、分かって欲しいこと、自身が最重要と考えその年の統合報告書でとにかく取り上げたいテーマが何か、それが中心になります。ここで事務方として上手く合意形成することが成否を決するといっても過言ないと思います。大切なことは、事前の打合せにおいて一度経営トップに言葉にしてもらうことなのではないでしょうか。考えの骨子をアウトプットしてもらうことでご自身の整理にもなりますし、必要に応じ外部の関心事との間の整合性の再確認にもつながります。
さらに、経営トップが常日頃考えている会社としての現在の重要課題と対応に関し事前打合せの中で挙げてもらうことも意味があると思います。ここでいう重要課題は、短期的な業績や計画達成に結びつくものというよりは、むしろ経営トップとしての将来構想や長期視点での経営課題といった大きいテーマに関連した経営者のビジョンに類するものの方がより良いのではないかと考えます。(ステップ5)
また、設定した最重要テーマに直結するしないにこだわる必要はないと思いますが、トップ自らの言葉で語る内容として、やはり何らかのエピソードは是非掲載すべきと思います。記事全体に立体感を出すという効果もありますし、経営トップ自身の人柄・人となりを感じてもらえるトピックスを示すことは、親近感や信頼感につながる大切なことであり、何よりファンづくりの近道と思います。(ステップ6)
そしてここからは事務方の役割として大切な領域になると思いますが、インタビュアの選定とインタビュー内容の決定、さらに書き起こし文章の最終化について触れます。
まず、インタビュアは社外の方に依頼するべきと考えます。社内の事務方がインタビュアをすると、上下関係があることでどうしても突っ込んだ内容になりにくいという弊害が生じます。統合報告書や統合思考と、資本市場の動向など外部環境を分かった上で、その企業の向かう方向や、置かれた状況、課題認識などを良く理解している人にお願いするのがベターと思います。そしてトップの語る内容に対し、更問や追加的な突っ込みが出来、より深い掘り出しが出来る方であれば理想的ではないでしょうか。
インタビューの設問は、前回述べた内容と今回の上記ポイントを参考に吟味する必要がありますが、やはり自社の潜在的サポーターに響くことを念頭に、“旬”な内容を設定することを心がけることが一番です。“旬”とは、外部環境の“旬”もあれば、当社特有の“旬”もあると思います。その際、記事にすることを意識して、話のゴールをある程度予想した問いを設定することと、その設問を挙げた背景を併せて質問書に記述しておくことは大切な工夫と思います。市場の最優先の関心事であれば、その背景や何故市場がそう見ているか、そこに関心を持っているかなどを簡潔に補足情報として記しておくこと、あるいはガイドラインやレギュレーションの変更によるサステナビリティ関連のテーマであれば、その内容の一定の理解が前提となるでしょうから、簡単な解説の記述を載せておくこと。その把握の上で、考えを述べてもらう。つまり、設問の表面的な答えではなく、真意を踏まえたコメントを引き出すことが重要と考えます。(ステップ7)
そして、書き起こし文章の最終化ですが、最も重要かつ難しい工程です。ポイントは、“生の声の尊重”であり、“一般論・一般化の排除”と思います。当たり前のことが当たり前に載っていても“刺さりません”。読みやすくする上での推敲は必要でしょうが、牙を抜かないよう、特長・独自性を最大限活かすよう、生のコメントとその言葉遣いを大事にし、綺麗な文章に“いじり過ぎない”ことは大切と思います。
またインタビュー時の一つ一つのQ&Aそのものと実際の記事コンテンツ上のテーマの柱は、異なっていて構いません。最終的に読者に読んでもらうのは、記事コンテンツの文章です。従って、文章の最終化を行う際に、記事として何を伝えたいのか、外部の関心に対し重要なアピールポイントは何なのかを、再度整理することは必要なステップです。インタビュー内容をそのまま使えるテーマもあるでしょうが、中にはいくつかのQ&Aを総合して、記事コンテンツにすべき場合もあると思います。トップメッセージ全体としての章立てとアピールの柱の構成は良く考えるべき点と思います。要は、伝えるべき本質的重要テーマの再確認・再設定に立ち返って、文章の最終化作業を行うべきではないでしょうか。
その上で最終化する文章について、トップとの逐次共有としっかりした擦り合わせが、“刺さるトップメッセージ”を作る最終重要工程になります。そのためには、押せ押せになりがちなスケジュールに対し、トップとのきめ細かなやりとりを含め時間的余裕を持った作り込みが、最重要コンテンツのトップメッセージには必須と考えます。(ステップ8)
(了)
内田 泰(うちだやすし)
元機械・自動車部品メーカー IR・CSR室長
計3カ国15年の海外駐在後、2006年からIR・CSR部門の実務責任者を15年間担当
2016年に初の統合報告書を発行
WICI統合リポートアウォード 優秀企業賞(2016~2018)、優秀企業大賞(2019)
日本IR協議会 IR優良企業賞(2016)
Institutional Investors誌 Machinery部門 IR Professional 上位選出多数

