【セミナーレポート】WICIシンポジウム2025 これからの『日本企業の統合報告』をいかに活用、進化させていくべきか(2025年12月11日)

WICIシンポジウム2025は、統合報告の基盤となる統合思考(Integrated Thinking)の意義と今後の展開をテーマに開催された国際シンポジウムである。統合報告は、企業が価値創造のプロセスを財務・非財務の両面から伝える任意開示ツールとして日本企業を含め広く普及してきた。一方で、ESG情報の国際標準化の進展や資本市場の構造変化を背景に、統合報告が果たすべき役割や、統合思考そのものの在り方が改めて問われている。

本シンポジウムでは、「諸資本の調和と対立」という視点を軸に、企業経営、投資、社会課題の関係性を踏まえながら、統合思考に基づく経営と統合報告の進化の方向性について、企業、投資家、支援機関、国際的な標準設定関係者が議論を行った。本セッション「これからの『日本企業の統合報告』をいかに活用、進化させていくべきか」では、統合報告の実務・活用・対話という観点から、日本企業が直面する課題を整理するとともに、今後の統合報告が果たすべき役割について多角的な意見交換が行われた。

WICIシンポジウム2025
セッション1

これからの『日本企業の統合報告』をいかに活用、進化させていくべきか

モデレーター:
・山本 章代 氏:株式会社ウィルズ 常務取締役

パネリスト:
・金綱 哲一 氏:アンリツ株式会社 IR部 IRシニアアドバイザー
・板垣 香里 氏:アズビル株式会社 コミュニケーション部 副部長
・岩永 泰典 氏:アムンディ・ジャパン チーフ・レスポンシブル・インベストメント・オフィサー、PhD, CFA
・山崎 直実 氏:一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム 事務局長
・砂川 祐恵 氏:株式会社リンクソシュール 取締役
・角 里香 氏:株式会社インベスターインパクト 代表取締役社長

セッション概要

統合報告は日本企業で広く定着した一方、経営戦略・価値創造と十分につながらず、対話に活かし切れていないという課題が共有された。
本質的な問題は、統合報告が担当者主導になり、経営の意思やストーリーが弱まっていることにある。
今後は、経営層・取締役会が主体となって価値創造ストーリーを描き、統合報告を「経営を映す鏡」「対話の起点」として再定義することが求められる。


投資家としての意見

投資家が統合報告に求めているのは、網羅的な情報量ではなく、
「なぜその事業が必要なのか」「なぜ自社はそれを実現できるのか」「どう企業価値につながるのか」という一貫した価値創造ストーリーである。
多くの統合報告は担当者が書いたことが読み取れてしまい、経営の覚悟や方向性が伝わらない。
価値創造ストーリーは取締役会・経営トップが策定すべきであり、統合報告はその成果を表現する手段である。
また、投資家は限られた時間で全体像や変化を把握しており、読み手の利用実態を踏まえた構成・媒体設計が重要である。


事業会社としての意見

統合報告は、投資家との対話や企業理解を深めるための重要なIRツールとして活用されている。
一方で、内容が経営判断や社内行動に十分に反映されておらず、経営と開示の乖離が課題となっている。
経営陣が自ら語り、統合報告に関与することで、社内の意識改革や部門連携を促す「経営変革の武器」になり得る。
今後は、媒体の進化(Web・動画・AI等)とともに、自社にとって本当に重要なテーマに絞り込むことが求められる。


支援会社としての意見

統合報告は開示物ではなく、経営の思想や存在意義を言語化し、社内外の対話を生むプロセスである。
読み手を投資家に定めても、「なぜそれを行うのか」という中身は、従業員や社会を含むマルチステークホルダー視点が不可欠である。
トップインタビューや制作プロセスは、原稿作成ではなく、経営の思考を引き出す対話の場として再設計すべきである。
将来は、戦略とインパクトの分化やデジタル・AI活用が進むが、最終的に価値を持つのは、企業固有の意思・熱量・変化が伝わることである。


まとめ

本セミナーを通じて、統合報告の本質的な価値は「開示の完成度」ではなく、経営の意思・価値創造の考え方・変化の方向性が一貫したストーリーとして伝わるかにあることが改めて確認された。
投資家は統合報告を通じて企業の将来像と覚悟を読み取り、事業会社は統合報告を経営や社内変革に活かす可能性を見出し、支援会社はその対話と翻訳を支える役割を担う。
今後の統合報告には、形式や情報量を超えて、経営を映す鏡として、対話を生み続ける存在へ進化することが求められている。

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