バーチャル株主総会とは?「参加型」と「出席型」の違いや特徴を解説

株主総会・決算説明会

2021年6月16日に産業競争力強化法の一部が改正され、一定の要件を満たし経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた上場会社は、「場所の定めのない株主総会(バーチャル株主総会)」の開催が可能となりました。

このバーチャル株主総会は取締役と株主が一堂に会する株主総会と、インターネットを利用して遠隔地から参加する株主総会との併用が期待されています。ネットを介在したバーチャルな株主総会は新型コロナウイルス感染症が流行して以降、導入する企業が増えてきました。

しかし、自社の業態に最適なバーチャル株主総会を設計するには、どのようなシステムや機材が必要なのか、また「ハイブリッド参加型」と「ハイブリッド出席型」どちらのバーチャル株主総会が最適なのかなど、不安を感じている担当者も多いと思います。

そこで本記事では、バーチャル株主総会の基本解説と事例を交えて紹介しますので、自社に最適な株主総会の開催スタイルを検討する参考材料にしてください。

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バーチャル株主総会とは?

バーチャル株主総会とは、Web会議システムを用いた仮想空間で行われる株主総会のことをいい、議長や取締役、監査役や株主が遠隔地から参加・出席する株主総会のことです。このバーチャル株主総会は大きく分けて2つのタイプがあります。

  • 「ハイブリッド型バーチャル株主総会」・・・現実の株主総会を開催しつつ、同時双方向配信による株主の参加または出席を行う
  • 「バーチャルオンリー株主総会」・・・現実の株主総会を一切開催せず、インターネットのみで株主の参加や出席を行う

これらのバーチャル株主総会は、株主や経営陣、会社の方針によって使い分けられます。最近は新型コロナウイルス感染症の拡大防止を背景としてニーズが高まっています。

「ハイブリッド参加型」と「ハイブリッド出席型」バーチャル株主総会の違い

ここでは、バーチャル株主総会の「ハイブリッド参加型」と「ハイブリッド出席型」2つのタイプの特徴や違いについて解説します。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、遠隔地等で現実の株主総会の場に在所しない株主が、インターネット上から審議を確認・傍聴できる株主総会です。投資先の会社から通知された固有のIDやパスワードを用いて株主確認を行い、特設されたオンライン上のWEBサイト等で配信される株主総会を中継動画で視聴できます。

このハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、あくまでも「参加型」なので、会社法上、質問(法314条)や動議(法304条等)は行うことはできません。

ただし、議長の裁量において、株主総会参加者から受け付けたコメント等は取り上げることは可能とされています。

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、リアル株主総会の場に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いてオンライン上から株主総会に出席し、決議にも加わる形態の株主総会です。

現行の会社法においてハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、法律上開催することは可能ですが、実施ガイドでは「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていること」が必要とされています。

また、株主自ら議決権行使についてインターネット等を用いて行うことが想定されますが、会社法312条1項所定の電磁的方法による議決権の行使は、株主総会の招集通知に記載の場所で開催された場所でのみ議決権を行使したものとみなされます。

ハイブリッド型バーチャル株主総会のメリット

バーチャル株主総会を開催する上で、株主と企業にはどんなメリットがあるのでしょうか。下記では双方の具体的なメリットについて解説します。

遠方にいる株主の参加率が拡大する

バイブリッド参加型バーチャル株主総会は、インターネット上で経営者自ら遠方にいる株主に対して情報発信できるため、株主が会社の経営を理解する有効な機会になります。

したがって、ハイブリッド参加型バーチャル株主総会を実施することにより、普段参加できずにいた遠方の株主の参加率が拡大するメリットがあります。株主にとって参加機会が広がることに加え、企業側にとっては会場の選択肢を広げることで、株主と企業の相互理解と信頼関係を構築することができます。

株主総会の透明性が向上する

バイブリッド参加型バーチャル株主総会は、株主総会への参加方法の多様化による株主重視の姿勢をアピールできるため、株主総会の透明性の向上が期待できます。

企業価値向上や企業成長には株主とのコミュニケーションが重要であり、その意思決定機関として株主総会があるため、参加しやすくなるというのは大きなメリットです。

新型コロナウイルス感染症の対策になる

旧来の来場型株主総会では密になることや移動に伴う感染リスク、飛沫防止や消毒などの対策が必要でした。一方、バイブリッド参加型バーチャル株主総会は、社長や取締役、株主がリアルの場で一堂に会する必要がないため、感染対策のコストを大幅に抑えられます。

また、物理的な会場を用意することなく、株主や役員がインターネット等の手段により出席するため運営コストの低減を図ることも可能です。

複数の株主総会を傍聴できるため効率的

株主総会は、企業・株主の双方にとって重要な機会です。ただし複数銘柄を所有する株主は、株主総会が同じ日に開催される場合、どれに出席するか選ばざるを得ない状況でした。

しかし、バイブリッド参加型バーチャル株主総会は、インターネット上で株主総会を傍聴できるため、複数の株主総会をネット上から傍聴することを可能にしました。企業は株主に対し聞く機会、権利を行使できる機会を用意する責務があるので、株主総会への参加方法の多様化は株主にとって大きなメリットになります。

バーチャル株主総会の注意点

株主総会開催に際し企業側が行うこととして、株主への周知、肖像権への配慮、配信遅延への対応などがありますが、バーチャル株主総会ならではの注意点がありますので紹介します。

株主への周知

バーチャル株主総会への招集通知では、動画配信を行うWEBサイト等にアクセスするためのパスワードやID等を事前に株主に通知する必要があるので注意しましょう。

また参加型の場合、インターネット等の手段を用いて参加する株主は当日の決議に参加できないので、委任状などで代理権を授与する代理人による議決権行使を行う必要があります。

記載するべき法定事項以外の株主への周知や、申込受付等にあたっては、自社のWEBサイト上で伝えるなど様々な方法が可能です。

肖像権への配慮

バーチャル株主総会において、株主に限定して配信した場合、肖像権等の問題が生じる可能性があるので注意する必要があります。また、撮影や録音、転載等を禁止することや、配信により株主の氏名が公開される場合は、予め通知をする等の対応をしましょう。

例えば、GMOインターネット株式会社では、質疑応答に先立ち、議長から「発言する際には株主番号と氏名を名乗るとともに、リアルタイムで配信される旨を了承して頂きたい」と告知しました。

リアル株主総会の会場

ハイブリッド型バーチャル株主総会の開催は、例年の出席株主数等をもとに予定人数は設定されますが、予想以上に出席人数が多い場合があるので注意が必要です。一定数の株主はバーチャル参加・出席を選択することが見込まれますが、株主数を合理的に予測した上で、例年通りリアル株主総会の会場を設定することが大切です。

また、会場の設定にあたっては、新型コロナウイルス感染拡大防止の対策のため、やむを得ないと判断された場合は、自社会議室を利用したり、例年より会場の規模を縮小したりする対策を講じる必要もあります。

Zホールディングス株式会社では、例年通り5,000人収容できる会場を用意しました。出席者数は1,500人前後でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の状況を鑑み、自社のセミナールームに会場を変更しました。

また、招集通知にて「リアル会場へのご来場はご遠慮いただきたい」旨を記載するとともに、リアル出席株主に関しては、事前登録制により20人に限定して開催した事例があります。

配信遅延への対応

バーチャル株主総会では、動画配信システム等を用いる場合、数秒〜数十秒程度の配信遅延が生じるため注意が必要する必要があります。軽微な配信遅延が起きた場合、直ちに議事進行に支障が生じるものではありませんが、議事進行を円滑に行うことが大切です。

対策方法としては、議決権行使の締め切り時間を予め告知をする、議決権行使から賛否結果表明までの間に一定の時間的有を設けるなどの方法が挙げられます。

グリー株式会社では株主総会の冒頭から議決権行使やテキストによる質問を可能とするとともに、予め議決権行使や締め切り時間を告知しました。

通信障害対策

バーチャル株主総会では、日本全国の株主がインターネットを利用しオンラインで一斉に集まるため、ネットワーク障害が起こるリスクがあります。従って、予め対策しておくことが大切です。

例えば、システムに関する自社の理解度を深め、一般に利用可能なライブ配信サービスやWEB会議ツールを利用する方法が挙げられます。また、通信障害が発生した場合でも代替手段を講じ、決議の継続や審議等ができるように電話会議等のバックアップ手段を確保しておくことが求められます。

株式会社アドウェイズでは、株主側の通信環境等によって接続ができない可能性も考慮し、事前にテスト用URLを発行することで、WEB会議ツールの接続テストの機会を2回設けました。

本人確認(なりすまし対策を含む)

IDやパスワードを利用した本人確認であっても、オンラインで行う限りは“なりすまし”問題を避けては通れません。対策方法としては、株主に固有の情報である株主番号や郵便番号等を複数用いる方法、画面上に本人の顔と整理番号を映し出す方法が挙げられます。

また、一定数以上の議決権を有する株主については、より慎重な本人確認が必要とされることがあります。例えば、法人株主のIDやパスワードの管理を容易にするために、議決権行使書面をID・パスワードの記載面を再貼付が可能なシールで覆うなどの工夫も考えられます。

富士ソフト株式会社の場合は、質疑応答の手段として電話受付としただけではなく、不足の事態に備えて予め電話番号を伺い、コールセンターを設置しました。

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バーチャル株主総会の参加型と出席型の事例を紹介


ここでは、バーチャル株主総会を実際に導入している企業の事例について、「参加型」と「出席型」に分けてそれぞれ紹介します。

コニカミノルタ株式会社(参加型)​

ITソリューション、複合機、商業・産業印刷機、医療用向け製品などのサービス提供を行うコニカミノルタ株式会社は、2020年6月にバーチャル株主総会を実施しました。前例のない状況の中で開催されたバーチャル株主総会では、社内改革のテーマである「TRANSFORM」を推進してきた中、新しい一環としてハイブリッド出席型のバーチャル株主総会を導入しました。

オンライン試聴を行った役員や従業員、株主からの意見やアンケートでは、画質や音声などが大変好評で、次年度以降もオンライン配信を継続したいというポジティブな反応が多く得られました。

株式会社LIXIL(参加型)

住生活関連製品の製造・販売・サービスを行う株式会社LIXILは、2020年6月にバーチャル株主総会を実施しました。「ハイブリッド出席型のバーチャル株主総会」を実施し、例年の来場者数を上回る332名の株主に試聴され、株主からのアンケートでは多数のポジティブな反応が得られました。

会場運用に関わる映像や音響、通訳業者とWEB対応を行う株式会社Jストリームが連携し、安定したシステム環境と入念な運営シナリオの両面から準備を整えました。

ハイブリッド型バーチャル株主総会実施の流れ

実際にハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する際の流れを以下で解説します。

バーチャル株主総会の招集通知

株主総会のスケジュールが確定したら、取締役は株主への招集通知を行います。その際に注意するべきポイントは下記の通りです。

  1. バーチャルで参加・出席する場合のURL、ID、パスワードを送る
  2. 参加型の場合は、予め書面で議決権行使の有無を代理人への委任を行う
  3. 議決権行使の方法についての説明を行う
  4. 通信障害が起きた場合に備えて告知を行う
  5. 質問する場合の文字数や制限などのルール説明を行う
  6. 動議の取り扱いについての説明を行う

バーチャル株主総会が初めての方が大半です。運営側も株主も混乱しないように、株主への通知は分かりやすく簡潔に明記しましょう。

バーチャル株主総会の環境準備

バーチャル株主総会では、通常のリアル株主総会の開催に必要な会場の準備や、ライブ配信に必要な機材、本人確認認証システムなど、議決権行使が可能な環境が必要です。

また、バーチャル株主総会の準備・設営だけではなく、配信中や配信後の運用など、いざという時のトラブルに備え、機材やシステムについての知識を持つスタッフが必要です。

バーチャル株主総会の議事録作成

バーチャル株主総会では議事録作成にあたって、会場に出席していない株主や役員の出席方法を書き加える必要があります。例えば、「テレビ会議」などです。

会社法では第712条3項一号において、株主総会の議事録は、「頭角場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は、株主が株主総会に出席をした場合における当該出席の方法」を記載しなければいけません。

つまり、インターネットを用いて株主総会に出席した「出席型」の場合は、議事録に当該株主の出席方法を記載する必要がありますが、「参加型」の場合は、株主は株主総会に出席したとは扱われないため、当該株主の出席方法を株主総会議事録に記載する必要はありません。

企業規模や自社の業態に最適なバーチャル株主総会を設計しよう

本記事では、バーチャル株主総会の概要や特徴、「出席型」「参加型」の違いやメリットについて具体的な事例を交えながら解説しました。株主総会への参加方法の多様化は、株主重視の姿勢をアピールできたり、株主とコミュニケーションを図ることで企業価値向上に繋げられたりするチャンスがあります。

最近は新型コロナウイルス感染症予防などの対応もあり、バーチャル株主総会を行う企業が年々増加しているため、この機会に導入を検討してみるきっかけにしてください。

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