東京証券取引所の調査によると、2020年度の日本株の外国人保有比率は30.2%と、海外投資家の影響が大きいことがわかります。特に現物株や日経平均株価など、値が大きく動く局面で海外投資家の買いが上昇を牽引している現状があります。
そのため、特にIR戦略の中でも海外投資家を見据えた活動を検討することは、企業にとって非常に重要なポイントになっています。
では、海外投資家は日本株のどのような点を重要視するのでしょうか。また、投資先企業に対する考え方において、日本の投資家と海外投資家の違いはあるのでしょうか。本記事では、海外投資家を呼び込むにあたっての具体的な方法や、海外投資家を意識したIR戦略の重要性について詳しく解説します。
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海外投資家の概要
海外投資家の概要やポイントについて解説します。
海外投資家は日本に居住していない外国籍の個人投資家、または法人の機関投資家のことを指し、ヘッジファンドや投資信託会社、海外年金基金などが含まれます。近年は海外投資家の売買シェアに占める比率が高く、市場の方向性に影響を与えており、実際に「投資部門別売買状況」によると2020年の株式売買代金の約7割を占めています。
また、海外投資家の中でも機関投資家は、多額の資金を預かって運用をしているため、最終受益者やスポンサーに対して強い責務を負っており、長年かけて積み上げた投資手法は複雑かつ精度の高いものとして知られています。
多くの機関投資家は国の経済成長率や物価上昇率などの経済指標と、企業の業績や財務状況をもとに株価を予想するファンダメンタルズ分析を採用しています。株価が他の銘柄と比較して株価が割安か割高かの評価をすることをバリュエーションと呼び、配当割引モデル(DDM)、経済付加価値(EVA)など、様々なモデルを構築しています。企業から発信される情報をもとにこのような分析を重ね、出資先の選定を行っています。
出典:投資部門別売買状況
海外投資家の特徴
海外投資家は日本の個人投資家と比べ「どんな特徴があり何が違うのか」、また「日本企業に投資する際にどのポイントを重要視しているのか」について解説します。
日本株市場の約3割を海外投資家が占めている
日本の上場企業は99%以上が日本に本社を置き、国内金融機関や個人投資家は7割と外国人投資家の割合は3割程度に過ぎません。しかし、日本の株式市場の株式売買代金の約6〜7割を海外投資家が占めているため、株価形成に大きな影響を与える存在となっています。
特に株価形成においては株式の保有ではなく株式の売買代金が影響を与えるので、企業経営において海外投資家は無視できないレベルで顕在化するようになってきました。
また、先物市場においては海外投資家が7〜8割と言われています。日経平均株価が動く背後には海外投資家がいるとの見方があり、その影響力は年々強まってきています。
出典:中小企業白書
企業のIR情報を重要視している
企業のIR情報とは「Investor Relations(インベスター・リレーションズ)」の略です。企業が投資家や株主に対して、経営状況や財務状況、業績動向を把握してもらう活動のことをいいます。具体的に海外投資家が重要視する日本企業のIR情報は、社長メッセージ、株価、決算関連資料、アナリスト・カバレッジ、FAQ、アニュアルレポート等が挙げられます。
その他にも、自社の方向性や成長性などの定性面だけではなく、同業他社や自社の経営指標係数の相対的な優位性などの定量面の充実度などに着目しています。特に海外投資家は日本企業が重点的に取り組んでいる課題や戦略のポイント・進捗状況、ディスカッションなどの双方向的コミュニケーションを最も重要視しています。
例えば、株式会社ベネッセホールディングスでは「顔の見える」IR活動を実施しており、社長・副社長自ら経営戦略や業績について説明し、海外投資家と活発的にコミュニケーションを図っています。
三菱電機株式会社や大日精化工業株式会社、エレコム株式会社や東日本旅客鉄道株式会社はIR情報を(英語版)として掲載しており、株式会社日本取引所グループの調査では、英文開示に対する海外投資家の高いニーズがあることが分かっています。
特に決算短信80%、IR説明会資料74%に上るなど、英文開示の重要性が求められてます。
経営指標のROEに着目している
ROE(Return on Equity)とは自己資本比率のことを指します。海外投資家は経営指標のROEに着目しており、特に株主資本の収益性を重要視しています。
株主にとって利益率の高い企業へ投資するのは当然であり、よりROEの高い会社が投資対象に値する企業というのが海外投資家達の見解となっています。
実際にMSCI、シティグループ証券の調査データによると、過去10年のROEの平均では、先進国の12.4%に比べ日本のROEは6.8%と非常に低い結果があります。
このデータから分かるのは、日本企業は海外に比べ利益率が低く、日本人の投資家の間ではROEを指標の一つとする考えがまだ根付いていないことが分かります。
ROEは金融機関からの借り入れを活用することによって高めることが可能です。これを財務レバレッジと呼び、借入金をテコにして自己資本以上のビジネスを行うものです。
日本では無借金経営を神聖視する傾向が見受けられますが、ROEを重視する海外投資家は効率的に利益を出すことに重きを置いています。
例えば、ROEは金融機関からの借り入れを活用することによって高めることが可能です。これを財務レバレッジと呼び、借入金をテコにして自己資本以上のビジネスを行うものです。日本では無借金経営を神聖視しているケースが見受けられますが、ROEを重視する海外投資家は効率的に利益を出すことに重きを置いています。
欧米社会では「株式会社は株主のもの」という意識が日本よりも根強く、ROEの指標が投資を行う判断材料の中で最も重要であると考えられています。
社歴が若いIT関連の日本企業に投資している
新興企業を中心に投資をする海外機関投資家は、社歴が若いIT関連の日本企業に投資をする比率が近年高まってきています。特にクラウドやアプリを使用したITサービス、医療のデジタル化、再生エネルギー関連等に注目が集まっています。
米国ではベンチャーキャピタル投資の規模は日本と比べて高水準で、大企業によるM&Aが盛んです。実際に2020年の米国におけるベンチャーキャピタル投資は、1300億円(約14.3兆円)に達しています。
2021年9月7日には、後払い決済サービス「ペイディ」を提供している日本企業の株式会社Paidyを3000億円(約27億円米ドル)で買収しました。また、メルカリの前最高財務責任者らが設立した株式会社ミネルバ・グロース・パートナーズの第一号となるファンド設立に海外投資家が約6割強を出資しました。
このように、近年はDX(デジタルを活用した変革)や脱炭素などに対応した新ビジネスにおいて、海外投資家からの日本のスタートアップ企業への関心が高まっています。
出典:海外マネーが注目する日本のスタートアップ、コロナ後に海外投資家比率が高まった銘柄は?
海外投資家は値上がり益を狙う傾向がある
海外投資家は莫大な資金で日本株を買う傾向があり、取引額が大きいためマーケットに与える影響も大きく、海外投資家が株式を売っている時には株価が下がり、買っている時は上がる傾向にあります。一般的に海外投資家は相場の流れに沿って売買する傾向があり、市場の全体的な方向性を見極めることを目的とした「順張り手法」で取引される場合が多いです。
一方で日本人投資家は相場の流れに逆らって売買する「逆張り手法」の傾向が強いです。また、「無借金経営」「キャッシュリッチ」「PBR(株価純資産倍率)が低い」というような指標を重視しています。
海外投資家を意識したIR戦略の重要性を解説
海外投資家の株式保有比率は、2008年9月に起きたリーマンショック以降に売り越しがあったものの、現在もなお30%強と大きな割合を占めています。そのため、国内の機関投資家や個人投資家同様に、海外投資家を対象としたIR戦略が重要です。
では海外投資家はどの点に着目しているのでしょうか。それは「コンテンツの充実度」「シンプルで分かりやすいメッセージ」「社長や役員のプロフィール」「最新の情報が更新されているかどうか」など総合的に判断しています。IR戦略は株主と海外投資家との間に良好な関係を築くことで、より有利な資金調達が可能になるといったメリットがあります。
日本でも徐々に間接金融から直接金融の比率が高まってきたと同時に、日本企業の海外での資金調達が進み、投資家とのコミュニケーションや情報開示に関する意識が高まってきました。海外投資家と良好な関係を構築するため、外国語での情報開示やその中身が問われるようになっています。
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海外投資家向けに自社のIR情報を伝える方法
海外投資家に「この会社に投資をしたい」「クオリティの高い銘柄」と思われるためには一体どのような施策を講じればいいのでしょうか。
そこで下記では、自社のIR情報を海外投資家に分かりやすく伝える具体的な方法について解説します。ぜひこの機会に参考にしてください。
企業情報を詳細に掲載しコンテンツを充実させる
海外投資家が見たい企業情報とは、「社長メッセージ」「企業の株価」「決算短信・ 決算説明資料・ 有価証券報告書」「アナリストカバレッジ」「FAQ」などが挙げられます。
特に海外企業は、社長メッセージやプレゼンテーションにおいて、ホームページ上で別ページを設けて、スピーチやプレゼンテーションの動画などを詳細に掲載しているのが大きな特徴です。
例えば、コニカミノルタ株式会社や株式会社カプコン、SOMPOホールディングス株式会社は、海外投資家向け情報や英語による情報開示などの動画、音声配信、ソーシャルメディア対応などコンテンツ面で高い評価を得ています。
従って投資家に「ご挨拶」という形だけではなく、企業独自のオリジナルメッセージやプレゼンテーションを通じ、投資家と企業がコミュニケーションを取りやすい雰囲気を作り出すことが大切です。
シンプルかつ具体的なメッセージを伝える
海外投資家達が必要と思っている情報と日本企業がIRとして示している情報にギャップが生じることが多いため、具体的で分かりやすいメッセージが求められています。
日本のIRサイトは社長のメッセージや経営ビジョンが抽象的な表現や会社の本業とかけ離れていることが多く、海外投資家から見るとよく分からない印象を与えてしまいます。
例としてApple Incであればかつてのスティーブ・ジョブズ氏、ソフトバンク株式会社であれば孫正義氏など、トップメッセージが企業やサービスに対するイメージを形成しています。
外国人投資家に対しては、会社の事業領域、自社の強みや方向性、競争力や優位性などをシンプルかつ具体的に分かりやすく伝えることが重要です。抽象的な言葉や表現を避け、受信者側の海外投資家が知りたい情報に答えることで、経営者自身が自社の長所を理解しているというメッセージになります。
IRサイトは企業の異文化コミュニケーションの最前線、顔となるメディアなので、海外投資家達から評価を貰うためには、「知りたい」に答える努力をしましょう。
ボードメンバーに写真やプライベート情報を入れる
海外の多くの企業では、コーポレートサイトにおいて社長や役員のプロフィール写真やプライベートが詳細に記載されているIRサイトが一般的です。一方で文化の違いになりますが、日本企業のコーポレートサイトは社長や役員の情報を文字列で一覧掲載する場合が多く、情報を列挙しているだけに過ぎない場合が多いです。
日本電信電話株式会社(NTT)やKDDI株式会社、楽天グループ株式会社や株式会社資生堂では、経営陣の肩書きと取締役、監査役の略歴が詳細に記載されています。
コーポレートサイトの目的は「企業の存在意義を語り、信頼とファンを増やすこと」です。海外投資家からすると、コーポレートサイトに興味が湧かない会社は「信頼できる会社なのか?」と疑問符が付いてしまいます。
WEB上における企業の顔であるコーポレートサイトは、日々様々な人が訪れるので、まずはその企業が「信頼できる」と思えるように、ボードメンバーに笑顔が素敵な写真やプライベート情報を記載してみましょう。
IRポケットを使用する
IRポケットとは、IRサイト上で更新頻度が高い情報を自動更新できるコンテンツ管理システムです。
例えば、TDnetやEDINETに情報を提出し、自動的に情報を更新できたり、管理画面の操作だけで簡単に図表やグラフ、社長メッセージなどを更新できます。その他にも、決算内容や事業の状況を説明する資料、年度の見通しや今後の中期経営計画といった、将来の予測や計画、取締役の任期変更、事業目的の追加・変更などを載せられます。
IRポケットを導入している企業は、株式会社メルカリ、株式会社NTTドコモ、コニカミノルタ株式会社などがあり、TDnetやEDINETに適時開示情報や法定開示情報を掲載しています。
IRポケットを活用すれば、IR情報の更新に関する時間短縮ができたり、IR情報の質を高めることで、投資家に対して企業情報を適宜に伝える情報を届けられるため、IR活動に役立ちます。公開前の企業情報は機密情報も多いため、情報共有や運用など、安全な仕組みを作ってから本格的にIRポケットを利用するようにしましょう。
海外投資家に適宜に伝わる情報を届けよう
本記事では、海外投資家の概要や特徴、IR戦略の重要性やIR情報を活用するための具体的な方法について詳しく解説しました。
日本企業はIR情報のコンテンツを拡充させることで、企業価値向上や投資家との長期的、安定的な信頼関係を築くことができると納得して頂けたのではないでしょうか。IR情報は会社の顔と言っても過言ではないので、海外投資家が見たい企業情報をIRサイトに記載しておくことで、企業価値向上に大きく高めることができます。
自社が行っている事業内容はもちろんのこと、社長や役員のプライベート情報を記載したり、会社の存在意義や志なども盛り込んだりし、自分達オリジナルのサイトにしましょう。サイトに訪れる海外投資家の中から、その企業を信頼してくれる方も出てくるはずです。そして、結果的に企業活動に大きな役割を担ってくれることでしょう。