株式市場で大きな存在感を放つ機関投資家。しかし、実際に機関投資家がどういった集団なのか?どういった投資手法で運用しているかを知っている人は少ないでしょう。
本記事では、世界と日本の機関投資家のランキング上位と、資産の保有状況、投資スタイルや動向が市場に与える影響を解説します。
「日本や世界の代表的な機関投資家を知りたい」「機関投資家がどう資金を運用しているのかが気になる」という人はぜひ参考にしてみてください。
機関投資家とは?
機関投資家とは、大量の資金を使い株式や債券で運用を行う法人の大口投資家のことです。
一般的には生命保険会社、損害保険会社、信託銀行、普通銀行、信用金庫、年金基金、共済組合、農協、政府系金融機関を指します。
大量の資金で運用を行うため、市場に与える影響は大きく、その動向はしばしばニュースでも取り上げられます。
機関投資家は比較的長期の運用を行うことが特徴とされており、短期的な取引を行うヘッジファンドなどは通常、含みません。
日本の(有名な)資産運用会社
このパートでは日本の資産運用会社を資産総額順に紹介します。
日本の資産運用会社の純資産総額ランキングTOP5
第2位 アセットマネジメマネジメントOne(みずほ) 86,898億円
第3位 三菱UFJ国際投信 82,215億円
第4位 大和アセットマネジメント 78,371億円
第5位 日興アセットマネジメント 74,489億円
※2021年6月末時点
野村、みずほ、三菱UFJなど大手金融機関のグループ会社が資産総額上位を占めています。
野村アセットマネジメントはETFの国内シェア45%を誇り、運用残高では世界5位です。国内の公募投資信託市場でも首位の28.3%のマーケットシェアを持っています。
アセットマネジメントOneは、みずほフィナンシャルグループと第一生命ホールディングスが株主の資産運用会社です。毎年多くの投資信託がファンド大賞を受賞しています。
三菱UFJ国際投信は三菱UFJフィナンシャルグループ傘下の運用会社です。ノーロード(手数料無料)の投資信託「eMAXIS」シリーズが人気です。
大和アセットマネジメントは豊富な品揃えの投資信託が強みです。純資産ランキング1位の「ダイワ上場投信-トピックス」の純資産総額は7兆円を超えます。
日興アセットマネジメントは、アメリカを始め、11以上の国・地域に展開する資産運用会社です。地域金融機関投資家向けサービスでは顧客満足度第1位を獲得しています。
世界最大の資産規模を誇るGPIFとは?
日本には世界最大級の機関投資家と呼ばれる組織があります。
「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」といい、日本の公的年金の運用を担っている組織です。ニュースなどでその名を一度は耳にしたこともあるのではないでしょうか。
GPIFは厚生労働省を通じて預かった国民の年金保険料で運用を行っており、その額は2021年には199兆円に達しています。東京証券取引所の1日の取引額が約3兆円程度であることを考えると、GPIFの資金がいかに巨大かが分かるでしょう。
世界の(有名な)機関投資家
第2位 バンガードグループ 6.15兆米ドル(701兆円)
第3位 ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ 3.11兆米ドル(355兆円)
第4位 フィデリティ投信 3.04兆米ドル(346兆円)
第5位 アリアンツグループ 3.04兆米ドル(346兆円)
※2020年10月時点
ブラックロックは世界最大の資産運用会社です。機関投資家向けの商品が多くを占めていますが、個人投資家向けにも人気な商品として「iシェアーズETF」があります。
バンガードグループは「長期・分散・低コスト」を謳う資産運用会社です。1976年に初の個人投資家向けインデックスファンドを売り出したことで知られています。
ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズは1993年に米国で初めてETFを上場させました。現在も、最も純資産高が多いETFとして有名な「SPDR S&P500 ETF(SPY)」があります。
フィデリティ投信はフィデリティ・インターナショナル傘下の資産運用会社です。公募投資信託の純資産残高は約3兆3,452億円で、国内に展開する外資系運用会社では首位となっています。
アリアンツはドイツに本社を置く世界最大級の金融グループです。生命保険や損害保険、資産運用管理、銀行業務などを世界70ヵ国以上で幅広く展開しています。
世界最大の運用会社ブラックロックとは?
ブラックロックはニューヨークに本社を置く世界最大の資産運用会社です。1988年に8人のメンバーにより設立されました。
運用資産は、株式・ETFをはじめ、債券からREIT・不動産・コモディティ・再生可能エネルギーなど多岐に渡ります。運用資産は10兆ドル(約1,360兆円)を超えており、日本のGDPの2倍以上です。(2022年6月現在)
機関投資家や政府系ファンドの運用が中心で、個人投資家にはあまり馴染みのない運用会社かもしれません。
主力商品の「iシェアーズETF」は世界のETFの約37.4%のシェアを保有しており、ブラックロックの手数料収入の約4割を稼いでいます。
機関投資家の投資スタイルは?
このパートでは機関投資家の投資スタイルを解説します。
運用方針や銘柄選定について公表している機関投資家はごく少数ですので、銘柄の傾向や売買の実績から投資スタイルを推察したものになります。
機関投資家それぞれの投資スタイル
機関投資家と言っても様々な組織が存在しており、それぞれ運用方針や手法には特徴があります。
公的年金・保険会社
公的年金や保険会社は、国民や顧客から預かった保険料を資金として運用を行います。そもそも投資目的で預かっている資金ではないため、リスクをできるだけ排除した安定・安全運用を行います。
運用スパンは10年〜数十年の超長期で、国債や債券など低リスクの商品への投資が多い傾向です。
銀行・投資信託会社
銀行や投資信託会社は、顧客から投資目的で預かった資金で運用を行います。顧客はもともとある程度のリスクを許容して資金を預けているため、アクティブな運用が可能です。
運用スパンは単年度〜数年と短く、株式などを始めとしたハイリスク・ハイリターン(またはミドルリスク・ミドルリターン)の商品で高い収益を狙う傾向があります。
機関投資家が選ぶ銘柄の特徴
このパートでは、機関投資家が選ぶ銘柄の特徴を解説します。
大型株・ETF
機関投資家は原則として時価総額の低い銘柄には投資をしません。
なぜなら、機関投資家の資金量は莫大なため、売買によって株価を上下させてしまうなど取引が市場に大きな負荷をかけてしまう恐れがあるためです。
時価総額は少なくとも100億円以上、海外の年金ファンドなら300億〜3,000億ほどの時価総額の株でないと、規定により買えないというファンドも。そのため、大型株またはETFといった数百億円規模の投資ができる銘柄を選びます。
流動性
上の項でも説明した通り、機関投資家は数百億円規模の時価総額の大きい銘柄を好みます。
後から買い足しをする際も数十億円の単位で行うため、市場に負荷をかけないように、流動性の高い銘柄を選ぶ必要があります。
また、顧客の解約に備えすぐ換金できるようにしておかなければいけないので、基本的には「売れない」「買えない」流動性の低い銘柄は保有しません。
産業の将来予測・ビジネスモデル
当然のことですが、機関投資家は斜陽産業には投資しません。
ニッチや大穴狙いではなく、成長が見込まれる業界を選び、さらに個別の企業についても詳しく調べ上げます。
企業が業界内でどのようなポジションにあるか、どのような市場にフォーカスして経営戦略を練っているか、ビジネスモデルに注目し、一つひとつの企業の成長ストーリーを把握した上で銘柄選定を行います。
財務内容や実績が優良であること
機関投資家は、企業の財務や実績を重視します。
特に、将来の予想ではなく、過去の実績から投資するに値する優良銘柄であるかどうかを判断します。
具体的には「業績のブレはあっても赤字はない」「株主資本比率が高く、財務体質の良い」といった企業が選ばれやすいでしょう。
経済環境や市場環境は、ダイナミックに変化していきます。その変化を織り込み、完璧に企業の将来を予想するのはとても難しいことです。過去に良い実績を残している会社は、将来も良い結果を残しやすい、そのように考える機関投資家は多いです。
情報開示を積極的に行っているか
IRなどで情報開示を積極的に行っている会社は、それだけで機関投資家にポジティブな印象を与えます。
銘柄選択の際にも、「企業の担当者に会ったことがある」「話を聞いたことがある」という事実はポイントとなります。
企業はできるだけ誠実な情報開示を心掛けましょう。全てを見せる必要はありませんが、できるだけ網羅的で確度の高い情報を開示します。
良く見せようとして、実態と乖離した情報を提示することは、機関投資家の信頼を失うことに繋がります。
割安な銘柄かどうか
機関投資家は銘柄について長期保有を前提にしていますので、割安かどうか(株価の上昇期待があるかどうか)は特に重視するポイントと言えるでしょう。
割安株に投資する手法は、機関投資家に限らず個人投資家も実践している王道の投資法です。「割安なら買い、割高なら売り」の判断は、シンプルながらも基本的な投資方針と言えます。
この手法はバリュー投資とも言い、「投資の神様」ウォーレン・バフェットが実践していることでも有名です。
機関投資家の動きを知る大量保有報告書とは?
大量保有報告書とは、発行済株式数の5%以上を保有したときに株主が内閣総理大臣に提出する書類です。
保有割合が5%を超えた日から5日以内に提出され、EDINET(電子情報開示システム)により、誰でも見ることができます。通称「5%ルール」とも呼ばれています。
機関投資家による株式の大量保有は市場や株価、一般投資家に及ぼす影響が大きいため、大量保有報告書の提出を義務付けることで市場の透明性・公平性を高める狙いがあります。
大量保有報告書を見れば、どのような機関投資家がどの銘柄を保有しているか、投資動向を伺い知ることができます。大量保有報告書には多くの投資家が注目しており、株価を動かす要因となることもあります。
機関投資家が市場や株価に及ぼす影響
大量の資金を運用する機関投資家。その動向が市場に与える影響はとても大きく、市場や株価を動かしたり、ニュースになることもしばしばあります。
このパートでは、機関投資家が市場や株価にインパクトを与えた事例を取り上げ、紹介します。
エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
2017年3月、米原子力事業で巨額の赤字を計上した東芝は株価が急落。その後も乱高下を繰り返していましたが、23日に投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネジメントによる株式の大量保有が明らかになり、株価は大幅続伸。東芝の株価は一時前日比10%高まで上昇し、出来高は日本市場トップの2億7,250万株に膨らみました。
サード・ポイント
アメリカの有名なアクティビストファンドのサードポイントは、2013年にソニーの株式を大量保有し、ソニーに対してアメリカでエンターテイメント事業を上場するよう提案しました。提案は断られ、その後ソニー株は売却されましたが2019年6月に再度ソニー株を15億ドル保有していると発表。それを受けてソニーの株価は上昇し、7月5日には年初来高値をつけました。また、2020年8月18日に保有していたソニーの株式を売却したことが発表されると、ソニー株は売り気配で始まり、8月19日には前日比150円安で寄り付きました。
企業は機関投資家と積極的な対話を
機関投資家は運用のプロであると同時に、企業の価値を見定めるプロでもあります。
上場企業にとって、機関投資家が自社の株を保有しているということは、莫大な運用資金を投じるに値する優良企業であるとお墨付きを得たのと同じです。
機関投資家が企業の株価に与える影響は大きく、保有の如何によって株価が上下することもあるでしょう。
すでに投資対象となっている企業なら、自社の株を保有し続けてもらえるように、また、まだ投資対象となっていない企業なら自社の株が選定されるよう、しっかりアピールしていく必要があります。
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