新型コロナウイルスの感染拡大や2021年の法改正をきっかけに、バーチャルのみでの株主総会が増加傾向にあることをご存知でしょうか?
企業統治指針「コーポレートガバナンスコード」にも含まれるほど重要性の高い「株主との対話」ですが、その方法は大きく変化しているのが現状です。
本記事では「株主対話」の意味や重要性、実際の企業例をご紹介し、バーチャル株主総会が増加している背景や魅力についても解説します。
株主対話を含む企業統治指針「コーポレートガバナンスコード」とは
「コーポレートガバナンスコード」とは、企業としての望ましい関係性や取締役会などの会社を監視する組織のあるべき姿が書かれた「企業統治指針」のことです。株主や顧客、従業員などのステークホルダーとの関係を踏まえたうえで、会社が公正・迅速な意志決定を行うための内容で構成されています。
コーポレートガバナンスコードは東京証券取引所のガイドラインであり、法的拘束力はありません。コードを守らないとしても、企業に罰則や制裁の対象にはなりません。
ただし、コードを遵守しない場合には、その理由を「コーポレート・ガバナンス報告書」で説明することが求められます。また違反の事実があれば東京証券取引所による公表の対象になり、会社の致命的な悪評につながるでしょう。
コーポレートガバナンスコードの構成内容
コーポレートガバナンスコードは全36ページですが、大きく分けて5つの基本原則で構成されています。
- 株主の権利および平等性の確保
- 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 適切な情報開示と透明性の確保
- 取締役会等の責務
- 株主との対話
株主の権利および平等性の確保
株主の権利平等性の確保とは、企業の実質的所有者である株主の権利に耳を傾けることを指します。
企業は株主の出資で成り立っている以上、実質的な企業の所有者にあたる存在です。企業は株主の権利と平等を確保する必要があります。
株主以外のステークホルダーとの適切な協働
ステークホルダーは株主だけではなく「従業員」「顧客」「取引先」「地域社会」など多岐にわたります。
「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」は、これらステークホルダーとの関係を重視するべき、というものです。
適切な情報開示と透明性の確保
コーポレートガバナンスを機能させるには、公正かつ透明性の高い経営が重要です。コーポレートガバナンスコードの基本原則でも、適切な情報開示と透明性の確保が求められています。
取締役会等の責務
会社から独立した客観的な立場から、実効性の高い監督を行うという原則です。
取締役会は会社の意思決定機関である一方、各取締役の監督をする機能も有しています。経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行って適切な評価を行うことで、経営陣や幹部の人事に適切に反映すべきとされています。
株主との対話
5つ目の基本原則は「株主との対話」です。株主との建設的な対話を促進させるための体制整備や、取組についての重要性が述べられています。
株主と対話を行う機会として「株主総会」がありますが、それ以外にも多くの窓口を設置することで企業の持続的な成長と企業価値の向上につながるとされています。
「株主との対話」とは何か
コーポレートガバナンスコードとして東京証券取引所が基本原則に組み込んだ「株主の対話」は、企業統治を行ううえでも重要な要素です。
コーポレートガバナンスコード「株主との対話」の内容をまとめると以下のようになります。
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- 上場企業は企業価値向上に資するため、株主総会以外の場でも株主と建設的な対話をするべき
- 経営幹部は対話を通じて株主の声に耳を傾けて正当に関心を払い、自社の経営方針を株主に分かりやすく説明して理解を得る努力を行う
- 株主を含むステークホルダーの立場に関する理解を踏まえて適切な対応をする
上場企業の経営陣や取締役は従業員・取引先・金融機関との対話の機会には恵まれていますが、彼らは賃金債権・貸付債権を持った債権者であって株主ではありません。
一方でもっとも重要なステークホルダーである株主との対話の機会は、株主総会以外には限られていることが多いのが実情です。
株主総会以外にも普段から株主と対話を行い、経営戦略や経営計画について理解してもらうことは、経営の基盤強化と持続的な成長には不可欠です。資本提供者の目線を取り入れることで、持続的な成長のための起業家精神を喚起する機会を得ることにもつながります。
コーポレートガバナンスコードによれば「合理的な範囲で、経営陣幹部または取締役が面談に臨むことを基本とすべきである」とされています。
具体的な株主対話の方法としては「より参加しやすい株主総会の実施」「個人株主向けの会社説明会」「IRイベントの実施」「会社見学会などの実施」が考えられます。
株主との対話を実施している企業の実例
実際に株主との対話を強化している企業として「双日」「東京エレクトロンデバイス」を紹介します。
双日
双日では、
- 株主に対して経営方針や持続的な成長と、中長期的な企業価値向上に向けた取り組みの適切な情報を適時に提供する
- 分かりやすい言葉・理論で明確に説明し、株主からの意見を経営へ報告・反映する
などが基本方針です。
たとえば中期経営計画や決算内容が取締役会で決議したあとは、速やかにウェブサイトに公表されます。
事業説明会やESG説明会等のオンラインによる実施、個人投資家説明会への参加、同社Webサイトでの社長による事業の視察動画の配信なども、株主対話の取り組みの一環です。
新型コロナウイルス感染症の影響が続くなかでも積極的な情報開示に努めています。
東京エレクトロンデバイス
東京エレクトロンデバイスは、株主からの対話(面談)の要望に対して目的や概要を確認したうえで積極的に対応する姿勢をとっている企業です。
決算説明会などの会合では、コーポレート管理統括本部の担当取締役が社長とともに対応を行います。株主との最初の接点について、アナリストや機関投資家の場合にはIR室を設置し、総務が個人株主の窓口を担当します。
また株主総会の活性化として、議決権行使の円滑化を目指した以下のような取り組みが行われていることも特筆すべき点です。
- 株主総会招集通知の早期発送
- 集中日を回避した株主総会の実施
- 電磁的方法による議決権の行使
そのほか当日会場に来られない株主のため インターネットで株主総会当日の様子をライブ配信できる「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」も実施しています。
今後の株式対話はどう変化するのか
従来は会社法の問題から、バーチャルオンリーの株主総会は難しい事情がありました。バーチャルとはいっても前述の東京エレクトロンデバイスが行っている「ハイブリッド型のバーチャル株主総会」が主流だった経緯があります。ハイブリッド型は物理的な会場を設ける一方で、追加的に取締役や株主等がインターネットを利用して株主総会に出席する方法です。
現在は2021年6月の法改正を機に、バーチャルオンリーの株主総会を開くことも可能になっています。
バーチャルオンリー株主総会が解禁された
2021年6月に「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」が成立しました。これによって「場所に定めのない株主総会」、つまりバーチャルのみでの株主総会が上場企業に限って可能になっています。
バーチャル株主総会はWeb上の会議システムなどを使ってオンライン上で開催する株主総会のことです。ハイブリッド型とは違い、議長や取締役、株主などの出席まで全てオンラインで完結させられます。
新型コロナウイルス感染が広がりを見せる中で感染リスクを下げられることは大きいメリットです。遠方にいても参加が可能なことでより多くの参加を見込め、活発な議論につながることが期待されています。
バーチャル株主総会は今後も増加する見込み
バーチャル株主総会の法整備が進む一方で、新型コロナウイルスの収束が見通せないことから、今後もバーチャル株主総会は増加すると予想できます。
外国においてもバーチャルオンリーの株主総会が増加の傾向です。たとえばアメリカでは2001年にはすでに Inforte Corporationがバーチャル総会を開催するなど日本企業より早くからバーチャルが導入されていますが、近年は特にバーチャルのみの株主総会が増加しています。
2010年代前半はハイブリッド型とバーチャルオンリー型の開催数に大きな差はありませんでした。ただし、2015年あたりからバーチャルオンリーの割合が急速に増加し、2017~2018年では約9割がバーチャルのみの株主総会になっています。
今後は日本でもバーチャルオンリーの株主総会が主流になり、より活発な株主対話が実現することでしょう。
すでに日本でもバーチャル株主総会を導入できるサービスがあります。株式会社ウィルズでは、オンライン上でリアルタイムの議決権行使の参加、質疑応答、閲覧などが可能なバーチャル株主総会運営サービス「バーチャル株主総会」を提供しています。
前日までの電子議決権行使の集計を行うことで議決権のスムーズな履行を行えるほか、チャット機能で上場企業へ質問できることで双方向性も担保されています。
株主対話を重視した企業統治が求められている
本記事ではコーポレートガバナンスコードにも明記された「株主対話」についての意味や重要性、上場企業での実際の事例を解説しました。
株主総会以外の場面で株主との対話を図ることにより、中長期的な企業価値の向上を目指すことにつながります。株主総会も従来の会場型からバーチャルでの開催が可能な法改正が行われており、より株主の意見を反映させやすい株主総会の開催が可能になりました。
今後もバーチャル株主総会の割合は増加すると予想されています。通常の株主総会から一歩踏み込んだ株主対話を行う手段として、導入を検討してみてはいかがでしょうか。