機関投資家とヘッジファンドの違いは?運用方針や市場への影響も解説

株式・投資

機関投資家とヘッジファンド、この両者は市場に大きな影響を与える存在として、ニュースなどでもたびたび取り上げられます。どちらも豊富な資金で運用を行う投資主体には違いありませんが、機関投資家とヘッジファンドの違いは何でしょうか?

本記事では、機関投資家とヘッジファンドそれぞれについて投資動向や運用方針、市場に与える影響から両者を取り巻く現状まで解説します。

「機関投資家とヘッジファンドにどんな違いがあるのか分からない」「それぞれどんな運用を行っているのか知りたい」という人はぜひチェックしてみてください。

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機関投資家とは

機関投資家とヘッジファンドは全く別物のように思われていますが、実はそうではなく、ヘッジファンドは機関投資家の一種です。

機関投資家とは、法人の大口投資家を指します。一般的には「生命保険会社」「損害保険会社」「銀行」「共済組合」「年金基金」「投資顧問会社」「ヘッジファンド」などが機関投資家と呼ばれます。日本で最も有名な機関投資家「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」は160兆円以上の資産を持ち、世界でも有数の機関投資家に数えられています。

機関投資家は顧客や投資家から集めた保険料や投資信託の購入資金を元手に、豊富な資金で運用を行います。1回あたりの売買金額は数億〜数十億にものぼるため、その投資動向が市場に与える影響は大きいです。

一般的には中〜長期運用、投資先は株式・債券などをはじめとしたミドルリスク・ミドルリターンの商品への投資が主流で、ハイリスク・短期取引は避ける傾向があります。

しかし一口に機関投資家といってもその運用スタイルは投資資金の性格や運用の目的によってそれぞれ異なります。

機関投資家の例

機関投資家と呼ばれる法人の一例です。

  • 生命保険会社/損害保険会社
  • 信託銀行/普通銀行
  • 信用金庫
  • 年金基金
  • 共済組合/農協
  • 政府系金融機関
  • 投資顧問会社/投資信託会社

ヘッジファンドとは

ヘッジファンドとは、あらゆる投資手法を用い、どんな市場環境でも収益を追求して運用を行う投資ファンドのことを言います。

今ではハイリスク・ハイリターンの代名詞となっていますが、「ヘッジ」にはもともと「避ける」という意味があり、リスクを避け高リターンを目指すというのが本来のヘッジファンドの投資スタイルです。

その歴史は意外に古く、1949年にアメリカで社会学者のアルフレッド・ジョーンズ氏が設立したファンドが始まりです。アメリカでは実に半世紀もの歴史を持っているのです。

ヘッジファンドの運用の特徴は「絶対利益追求型」です。

通常、市場環境が悪化し相場が下がっていれば当然、金融商品の価値は下がり損失が出ます。しかしヘッジファンドは投資資金を複数の投資対象に分散し、空売り・先物・オプション等の投資手法をフル活用することで、いかなる市場環境でも利益を上げることを目指します。

ただし、中には利益を追求するあまり極端なレバレッジをかけた投資を行い、ヘッジファンド会社そのものが破綻するケースも。

また、ヘッジファンドの投資動向が市場の流れを加速させてしまうケースもしばしばあります。リーマンショック時はヘッジファンドによる売りが売りを呼び、相場の過度な下落を招いたとも言われています。

このようにヘッジファンドは市場を動揺させる要因ともなりますが、投資家に多様な投資戦略を提供したり、流動性を供給したりするなど市場にとって重要な役割も果たしています

そのため、現在ヘッジファンドそのものが直接の規制対象とまではされていません。

ヘッジファンドの例

ヘッジファンド会社には以下に挙げるものがあります。

<海外>

  • ブリッジウォーター・アソシエイツ
  • ルネッサンス・テクノロジーズ
  • ミレニアム・マネジメント
  • DEショー・グループ
  • ツー・シグマ・インベストメンツ など

<国内>

  • 暁翔キャピタル
  • 根津アジアキャピタルマネジメント など

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投資資金や運用者が違う

機関投資家とヘッジファンドの違いの一つとして、投資資金や運用者が異なる点が挙げられます。以下の項で詳しく解説していきます。

機関投資家

機関投資家の投資資金は、顧客から預かった保険料や投資目的の資金です。

生保/損保会社・年金基金は顧客から受け取った保険料だけでは保険金・年金の支払いや法人の経費をまかないきれません。そのため、投資による運用益を目的に資金を運用します。

これは銀行も同じです。銀行は顧客の預金を元手に運用しています。銀行の本業は融資や預金で、利息収入が本来の事業による利益となりますが、超低金利によって本業だけでは十分な利益を上げられません。

また投資顧問会社/投資運用会社は、顧客から投資目的で資産を預かっています。どの機関投資家も個人や法人の投資家から広く運用資金を募っているため、数億〜数十億といった売買規模の大きい取引が可能になります。

機関投資家の多くは、資産をどのような金融商品に投資しているかポートフォリオを公開しており、一般の顧客でも見られるようになっています。

また、発行済み株式の5%以上を取得した法人の名称は大量保有報告書に記載されますので、個別銘柄の保有株数を確認することも可能です。

ヘッジファンド

ヘッジファンドは「私募投資信託」といって、一部の機関投資家や富裕層から集めた資金で運用を行っています。

通常の投資信託は「公募投資信託」と呼ばれ、個人や法人問わず広く出資者を募っていますが、私募投資信託は限られた大口投資家しか出資できないようになっています。

最低投資金額は数千万〜数億円とも言われており、一般の投資家が他の金融商品と同じように購入することはできません。

ヘッジファンドは出資できる投資家を限定したり、専門的な知識を持つ機関投資家を対象にしていることで、運用に関する規制を受けにくく、自由に運用戦略を設定できます。

また、目論見書や有価証券報告書といった情報開示資料を提供する義務もないため、運用手法を知られる恐れもありません。

富裕層や機関投資家の資金をプロ中のプロ投資家であるヘッジファンドマネージャーが運用しているのです。

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運用手法や投資銘柄が違う

機関投資家とヘッジファンドは運用手法や投資対象とする銘柄が異なります。

機関投資家

機関投資家は主に株式・債券・投資信託といった金融商品に投資します。

特に、保険料や預金を運用の原資としている生保/損保会社や銀行・年金基金は、原資がもともと投資のために預かった資金ではないため、できる限り資産を減らさないよう低リスクの運用を行う傾向があります。

機関投資家は明確な投資方針に従って、銘柄を詳しくリサーチしポートフォリオに組み入れます。

株式ならば財務内容がよく将来性があり、割安な企業であること、また、保険の解約や資金の引き出しに備えて流動性・換金性の高い銘柄であることも選定の条件となっています。

運用のスタイルとしては長期・安定・低リスク投資の傾向があり、短期での売買はしません。短くても1年、長い場合は数十年といった長期間での運用が基本となります。

ヘッジファンド

ヘッジファンドは株式・債券・投資信託はもちろん不動産・コモディティ投資や、為替・先物・信用といったあらゆる金融商品を投資対象としています。

各金融商品に対して幅広い投資手法を駆使し、どんな相場であっても利益を上げられるよう運用を行います

その代わり、ヘッジファンドは通常の投資信託とは違い解約できる時期や解約できる金額に制限があることも多く、換金性が低い・流動性が低いデメリットがあります。

また、広く一般に出資者を募るファンドではないため、投資対象や投資割合等の情報が閲覧できません。運用状況の透明性が低いということももう一つのデメリットに数えられます。

運用のスタイルとしては、資産の分散やさまざまな運用手法によってリスクを廃した投資を行います。必要ならば短期での売買も行いますが、長期で資産を運用するヘッジファンドもあります。

一般的なヘッジファンドのイメージは「高リスク・短期売買」ですが、実際は必ずしもそうではないのです。

<投資手法の一例>

このパートでは、ヘッジファンドの持つさまざまな投資手法のうちの一部を紹介します。

ロング・ショート
「買い(ロング)」から入る通常の取引と「売り(ショート)」から入る取引を組み合わせてリスクを回避する取引です。片方の取引がヘッジの役割を果たすため相場の上下に関わらず利益を狙えます。ヘッジファンドの伝統的な投資手法です。
マルチ・ストラテジー
複数の投資戦略を組み合わせて投資を行う手法です。広くリスク分散ができるため、この手法を採用する機関投資家は多いです。
イベント・ドリブン
企業のM&Aや株式公開・業務提携・リストラといった「企業イベント」に注目して投資を行います。イベントによる株価の大きな変動を収益機会とする手法です。
マネージド・フューチャーズ
金融商品先物を投資対象として利益を追求する手法です。上昇・下落どちらの相場局面でも利益が狙えます。先物(Futures)を管理・運用(Managed)するといった名称の通り、相場が一方向に傾く局面で運用成績が上がりやすい特徴があります。
アービトラージ
同じ商品・銘柄の価格差を利用して利益を上げる方法です。例えば2つの異なる市場に上場している同じ銘柄があったと仮定します。アービトラージは片方が割安でもう片方が割高だった場合、割高な銘柄を売り、割安な銘柄を買うといった方法です。
グローバル・マクロ
世界中の国・または地域の経済・金融市場・情勢などをマクロ(大局的な)視点から分析し、あらゆる市場・金融商品を対象に買い・売りを織り交ぜ投資する方法です。

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機関投資家・ヘッジファンドの現状

このパートでは機関投資家・ヘッジファンドを取り巻く現状を解説します。

機関投資家

昨今の機関投資家の投資動向として挙げられるものに「ESG投資」があります。

ESGとは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の頭文字を取って作られた造語です。

ESG投資とは企業の環境・社会・企業統治の分野における取り組みを投資の判断指標とする投資方法を指します。

環境分野であれば気候変動対策や生物多様性の保護、社会分野では多様性への配慮や貧困対策、企業統治では株主保護や法令遵守といった企業の取り組みが注目されます。

これまで、機関投資家は企業の財務や市場動向といった情報を参考に投資判断を行ってきました。

しかし、昨今は短期的な利益を求めるばかりでなく、企業の事業活動が将来的に存続可能で、投資家へ長期的に恩恵をもたらすものかといった視点が重視されるようになり、そうしたことからESG投資に関心が集まっています

2015年にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESGを投資の判断指標として取り入れることを求める国連責任投資原則(PRI)に署名したこともあり、日本でもESG投資資産が徐々に増えてきています。

ヘッジファンド

2008年のリーマンショック以降、世界的な株安が進んだことにより金融規制が厳しくなるなどヘッジファンドへの風当たりは強くなりました。

富裕層や機関投資家の豊富な資金をもとに大胆な運用手法を実行し、絶対収益を追求するヘッジファンドの存在が相場を混乱させ、市場の過度な下落を招いたと言われたためです。

規制強化によってヘッジファンドは情報開示や販売・勧誘に関する規制、コンプライアンスが強く求められるようになり、かつてほどの運用成果を上げられなくなり、「退場」を余儀なくされるヘッジファンドも出現しました。

また、昨今はコロナショックやロシアによるウクライナ侵攻による金融市場の混乱が過去にないほどの激しい価格変動を生み、それに振り回されてしまい思うような運用成果を上げられなかったヘッジファンドも多かったようです。

調査会社HFRが2022年7月8日に発表したデータによると、ヘッジファンド全体の今年上期運用成績はマイナス5.9%でした。

どのような相場局面でもリスクを抑え利益を生み出す「絶対収益」という強みが失われたことで、ヘッジファンドは大きな資金流出に見舞われました。

「勝ち組」として投資家の資金を集めてきたヘッジファンドは、今まさに転機を迎えようとしています

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上場企業にとって、長期投資・安定運用を行う多くの機関投資家は歓迎すべき存在です。一方、ヘッジファンドは「絶対収益追求型」のため、利害が一致しない限りヘッジファンドによる株式の保有は会社にとってプラスとならない場合もあるでしょう。

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