テレビや雑誌などで話題の優待生活という言葉は、株主優待品で生活出費を賄う人のことを指します。特に個人投資家から人気を集めており、優待品目当てに株式投資を始める人も多くなっています。
この記事では企業が株主優待を行うメリットやデメリット、実施する目的、企業事例を紹介します。
株主優待とは
出典:野村インベスター・リレーションズ株式会社 株主優待実施企業実態調査
株主優待とは企業が株主に対して自社商品や商品券、食事券、クオカードなどをプレゼントする任意の制度です。
野村インベスター・リレーションズ株式会社が行った「株主優待実施企業実態調査」によると、2021年に株主優待を実施している銘柄数は1,526で全体の36.4%を占めています。株主優待は株価の安定化を図る長期保有の促進や自社製品のPR、企業やブランドの理解促進を期待できるなど、企業側にとってメリットの高い制度です。
株主優待を提供する理由
株主優待で生活をする「桐谷さん」がメディアで頻繁に取り上げられるなど、優待に対する注目度が高まっています。日本IR協議会の「個人投資家の投資意識とIRニーズに関するアンケート」によると、株式投資に対する考え方が長期配当・優待重視型の投資家は全体の24.7%に及んでいます。これは短期運用バランス型投資家の34.0%に次いで多い数字です。
株主優待制度は個人投資家を募り、企業のファンを醸成する上で欠かせない要素の1つと言えます。特に日本は優待に対する期待感が高く、外食企業などを中心として権利付最終日に株価が釣り上がる事例も多く見かけます。
企業側にとって株主優待を実施するメリット・デメリットはどこにあるのでしょうか。
株主優待のメリット
メリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 株価の上昇
- 流動性の向上
- 長期保有の促進
- 個人投資家の増加
- 自社製品のPR
優待は株価上昇や流動性の向上に期待ができます。新型コロナウイルス感染拡大によって業績が一時的に悪化し、優待を廃止する企業がありました。その1つが自社商品の優待を実施していたトラスコ中山株式会社です。2020年8月21日の取締役会において、株主優待制度の廃止を決定しました。株価は決定前の8月19日の終値2,877円から、11月11日に一時2,652円まで7.9%下落しました。
また、1日10万株を超えている日の方が多かった出来高は、下回る日の方が多くなっています。トラスコ中山が、手厚い優待制度で個人投資家を集め、株価の上昇や流動性の向上を狙っていたことがわかります。
株主優待は「1年以上の継続保有」などと条件をつけ、長期保有株主だけに実施することが可能です。株式市場から資金を調達することを考えれば、長期的な株価の上昇が必須となります。「(株主優待実施企業実態調査)」によると、株主優待を実施する目的の2021年のトップ項目が「株主の長期保有促進」でした。
株主優待専門の雑誌やメディアも数多くあり、優待制度があることを無料で掲載することも可能です。自社とは切り離されたメディアで宣伝することができ、個人投資家を集める絶好の機会になります。優待を実施することで新たな投資家にリーチできることもメリットの1つでしょう。
株主が商品を手に取ったり、店舗に来店することもマーケティングの側面で重要なポイントです。市場調査を行うニールセンの「GLOBAL TRUST IN ADVERTISING」によると、友人や家族からの推薦がブランドの信頼度を得る上で最も重要であり、83%の人がそれを信頼するとしています。株主優待によってブランドを知り、その口コミ効果が広がることに期待できます。
株主優待のデメリット
一方のデメリットとしては、次のようなものがあります。
- 株主優待にかかるコスト
- 機関投資家からの批判
デメリットは何といっても株主優待にかかるコスト(費用や配送の手間)です。日本経済新聞が702社を調査したところ、2019年の優待の費用は370億円でした。2015年比で47%増加しています。一方、同期間の純利益は27%の増加に留まっており、利益と優待の増加が見合っていません。優待にかかるコストが利益を圧迫していることになります。
これを疑問視しているのが機関投資家です。特に海外の大口機関投資家は株主優待のメリットを享受することができません。自社製品の理解促進に繋がる株主優待ならまだしも、クオカードのような金券をばらまく株主優待を廃止し、配当にまわすべきだとの声が聞かれます。
機関投資家は株価を支える最重要な株主であり、株価の安定になくてはならない存在です。個人投資家、機関投資家双方への配慮で難しい判断が迫られています。
株主優待から銘柄を選ぶ個人投資家が増えている
実際に人気のある株主優待にはどのようなものがあるのでしょうか。株主の視点から解説します。
株主優待と配当金の違い
まず、株主優待と配当金の違いについて説明します。企業にとっての一番の違いは、配当金が純利益の増減に応じて変化するものであることに対し、株主優待は企業の考え方が反映されているものと言えます。
配当金は純利益と配当性向によって決まります。配当性向が高い会社ほど、株主に利益を多く還元していることになります。しかし、配当性向が高いからといって優良な銘柄であるとは限りません。純利益は利益剰余金として蓄えておき、大規模な設備投資やM&Aの備えとすることができます。つまり、今よりも大幅に業績拡大をする原資になるものです。
配当はそれを取り崩すものであり、株主価値を毀損しているとも受け取ることができます。世界最高の投資家の一人であるバフェットが経営するバークシャーハサウェイが50年無配当であることはよく知られています。これは配当が企業の成長を抑制するものであることを熟知し、投資家にもそれを理解させているからです。
配当が株価を左右する要因の1つであることは間違いありませんが、企業の成長と株主への還元という難しい経営判断が迫られます。株主優待は自社商品を活用することによってコストを抑えることが可能です。企業の考え方次第で様々な形に変えられるため、活用する腕が試されると言えるでしょう。
株主が株主優待を選ぶポイント
日本証券業協会の「個人投資家の証券投資に関する意識調査」によると、株主優待を重視する年齢別の投資家は50代が13.8%となり、この項目の平均値12.1%を上回ります。60〜64歳が14.9%、65歳〜69歳が14.7%で、50代から69歳までの投資家は特に株主優待を重視しています。優待目的で株式を保有する層は50代以上と考えた方が良いでしょう。
株主優待のランキングなどを行うメディアでは、5万円以下、20万円以下でセグメントしているものが多く、予算の一つの目安となりそうです。カテゴリ別で見ると、「食料品」「食事券」「金券」「カタログギフト」が上位を占めているケースが多くなっています。
「業務スーパー」の株式会社神戸物産は100株以上で、3年未満が1,000円分の商品券、3年以上が3,000円分の商品券です。保有年数に応じて割引額を変えています。企業は何のために株主優待を提供するかを決め、株主にどんな効果を期待するかを見極めることが重要です。それが株主のニーズと重なることで、効果を発揮すると考えられます。
株主優待の事例
実際の事例を銘柄別で見てみましょう。今回はエステー株式会社、株式会社エアトリ、株式会社オールアバウトの株主優待の事例を紹介します。
エステー株式会社の株主優待
エステー株式会社は株主還元に関する基本方針において、配当政策、株主優待、自己株式の取得の3つを重視しています。株主優待は事業への理解と長期保有の増加を目的としていると明記しています。
株主優待は100株以上の保有で、1,000円相当の製品詰め合わせを用意しています。1,000株以上の保有で3,000円相当の製品を年2回発送しています。事業への理解を目的の一つに掲げている通り、商品の中身は頻繁に変更しています。株主優待は、会社の一番のファンである個人投資家にブランドの理解を深める絶好の機会となります。
株式会社エアトリの株主優待
航空券のインターネット取引を行う株式会社エアトリは、保有株式数に応じたポイントを付与する優待制度を設けています。500株以上で8,000ポイントと付与し、1年以上保有すると8,800ポイントになるものです。1ポイント1円として、国内航空券などとして使用することができます。
2016年11月に「エアトリプレミアム優待クラブ」をオープンしました。これにより、手持ちのポイントを百貨店などの商品と交換することができます。ポイントを軸として、自社商品以外のものも取り扱えるようになったことが特徴です。
参考:株式会社エアトリ 株主優待情報
株式会社オールアバウトの株主優待
株式会社オールアバウトも優待ポイントを採用しています。300株で1,000ポイント(1,000円相当)が付与されます。貯まったポイントは「オールアバウトプレミアム優待クラブで暮らしを支えるグッズなどと交換することができます。オールアバウトはメディアの運用企業であり、企業の理解促進を図る優待制度を設けにくい業種です。その点、ポイントの付与と交換という仕組みは有効です。
株主が自由に商品を選べる『プレミアム優待倶楽部』
投資家にとって株主優待は投資を検討する上でも重要なポイントということがわかりました。しかし、どのような商品を提供するのかは悩み所です。
株式会社ウイルズが運営する『プレミアム優待クラブ』は、株主の保有株数や保有期間に応じて優待ポイントを付与する「プレミアムポイント」を取得できる新しいサービスです。貯まったポイントは高級な食材や、電化製品など約2,000種類以上の商品と交換することができます。ポイントは「WILLs Coin」を経由することで他社ポイントと合算できるため、株主のメリットが高まります。
さらに、企業は『プレミアム優待クラブ』を通してIRニュースなどを株主に配信できます。また、株主情報をデータで管理することにより、郵送代などの管理コストを低減できる上、議決権行使の促進にも役立ちます。企業と株主のコミュニケーションツールとしても利用できます。詳しくは下記サービスページをご確認ください。