機関投資家とは、170兆円超を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のような、資産規模の大きい投資家を指します。巨額の資金を運用しているため株価への影響が大きく、出資を受ける企業は、株価の安定や企業の信用力の向上が望めます。
日本では2014年2月に金融庁から「日本スチュワードシップコード」が公表され、機関投資家の顧客・受益者への責任を果たす原則が定められました。
これにより、企業の持続的な成長に向けて建設的な働き方が求められるようになっています。機関投資家は経営への影響力が大きく、出資を受ける際は慎重な判断が必要です。
この記事では、機関投資家の意味や種類、独自の投資手法や分析方法、株主割合や企業との関係性、投資先の具体的な種類について詳しく解説します。今後企業経営を持続的に成長させるために、機関投資家との協働を含めたの有効的なIR運用方法を把握されたい経営陣の方は、参考にしてください。
機関投資家の意味
機関投資家とは、顧客から預かった資金を株式や債券等で運用・管理する大口投資家のことです。例えば、信託銀行、年金基金、信用金庫、共済組合、農協、政府系金融機関などが挙げられます。一般的な投資家と機関投資家の大きな違いは資金力です。個人投資家は自己資金で投資を行いますが、機関投資家は多くの顧客から集めた資金を運用するため、市場でも強い影響力があります。
他者の資金を預かる機関投資家の損失は、会社と運用者に凄まじい痛みを伴います。場合によっては顧客の資金の引き上げ、運用者の立場が危うくなるリスクも控えています。
また、機関投資家はプロの投資家なので個人投資家に比べ、投資に必要な多くの情報が手に入る環境があり、資金量も豊富です。結果として、相場を有利に立ち回れます。一方で、個人投資家と違い、機関投資家には毎月のノルマが存在します。
機関投資家の種類
機関投資家にはさまざまな種類がありますが、国内外の主な機関投資家を紹介します。
保険会社
保険会社は保険加入者から保険料として資金を集め、この資金を元手に資産運用会社が資産運用を行なっています。例えば、国内企業の日本生命保険相互会社、外資系企業ではAIG損害保険株式会社などが挙げられます。
保険会社は支払いが発生した場合、確実に資金を確保しておく必要があるためリスクを抑えた運用がメインです。リスクヘッジのために、株式、債券、不動産などにバランスよく投資をしています。例えば、日本生命保険相互会社は2020年度末時点で、36.1%を公社債、14.5%を株式、29.2%を外国証券、2.3%を不動産に投資しています。
年金基金
日本国内では年金の運用管理を行う「年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)」や「国民年金基金連合会」、共済基金など多数の運用機関があります。
GPIFは2020年4月1日からの基本ポートフォリオとして、国内債券を25%、外国債券を25%、国内株式を25%、外国株式を25%とすることを決めました。実質的な運用利回り1.7%を最低限のリスクで確保することを目標としており、その結果として導き出されたのが基本ポートフォリオです。
GPIFの運用規模は150兆円を超えています。一方でアメリカのカリフォルニア州職員退職年金基金では、運用規模は約19兆円と日本の約7分の1程度です。
アセットマネジメント会社
アセットマネジメント会社は個人や法人から資金を預かり、資産管理や運用の代行業務を行います。日本では投資信託の金融商品を提供している場合が多く、アセットマネジメント会社が運用しています。
会社によって投資先や投資手法は様々です。例えば、先物(金・原油・天然ガス)など中心でポートフォリオを組む企業もあれば、株と債券をバランスよく投資する企業もあります。
機関投資家が運用する資金は企業によって規模は異なりますが、国内大手企業の野村アセットマネジメント株式会社では50兆円の規模があり、外資系企業のJPモルガン・アセット・マネジメント株式会社では105兆円の規模になります。
投資ファンド
投資ファンドは顧客から資金を集めて投資をし、リターンを得る点でアセットマネジメント会社に似ています。しかし、その手法は大きく異なります。
ベンチャーファンド、バイアウトファンド、企業再生ファンドなどは、未上場株に投資をして経営陣にアドバイスをしながら、企業価値を高める手法を得意としています。投資期間は概ね5年ほどで、IPOやM&Aが主なエグジットとなります。
最近の株式市場ではアクティビストファンドが注目されており、その対応に苦慮した株式会社東芝が組織を三分割する案を提案するなど、経営陣との対立も目立つようになりました。
スチュワードシップ・コードの解説
スチュワードシップ・コードとは、「会社は経営者のものではなく、資本を投下した株主のもの」という考えを持った機関投資家の行動規範です。
具体的には、企業経営の収益力の向上、コーポレートガバナンスの向上、企業経営を監視することで経営陣の不正を防いだりする制度です。目的は機関投資家が投資先企業との「目的を持った対話」(エンゲージメント)を通じ、企業価値向上や持続的成長を促すことで、株主や顧客の中長期的なリターンを得ることです。
この目的責任を果たすための機関投資家の行動を「スチュワードシップ活動」ともいい、経済全体の成長に繋がることが期待されています。
スチュワードシップ・コードでは以下の8つの原則が定められています。
- 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
- 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。
- 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。
- 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである。
- 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
- 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。
- 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。
- 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。
スチュワードシップ・コードを受け入れた企業は、必ずしも上記の8つの原則を守る必要はなく、「できない理由」を説明すれば責任を果たしているとみなされます。そして、受け入れた企業はホームページで公開し、毎年の見直しと更新が求められます。
自社の株主として機関投資家がいるか調べる方法
ここでは他企業の株主に、どのような機関投資家がいるのか、どのくらいの割合いるのかなど、他企業の機関投資家の調べ方について紹介します。
投資部門別売買状況を確認する
機関投資家全体や他企業毎の取引量を把握したい時は、日本取引所グループが提供している「投資部門別売買状況」を確認してみましょう。
「投資部門別売買状況」とは、機関投資家をはじめ個人や外国人など、投資家ごとの売買動向をまとめたデータであり、この対象には東京証券取引所、マザーズ、JASDAQなどの新興市場も含まれます。
データは週間・月間・年間の情報を把握でき、特に週間の情報については原則翌週第4営業日に公表されますが、前週の取引履歴を確認することができます。
有価証券報告書で株主を確認する
機関投資家の保有割合を知りたい場合は、有価証券報告書の中でも「株式の保有状況」の項目を確認することで把握できます。
「株式の保有状況」はその名の通り、保有している他社株式の保有状況を示したものであり、投資有価証券の運用状況などが分かります。
例えば、政府、金融機関、地方公共団体、企業、個人など株式を保有している機関や組織、株式数や割合を確認でき、企業によってはHPに記載されている場合もあります。
大株主や5%ルールを確認する
5%ルールとは、株価に影響を与える大量保有の情報を公開することで、市場の透明性や公正性を高め、投資家達の保護を目的としたルールです。
上場企業の銘柄の5%以上を保有している株主は「大量保有者」となり、保有目的や保有割合、取得資金などを記載した「大量保有報告書」を金融庁に提出する義務があります。
従って、この「5%ルール」では大株主や大量保有者を調べるには、金融庁のデータが載っているEDINETというサイトや企業ホームページ、有価証券報告書の「株式の保有状況」で確認できます。
機関投資家と協働して企業価値を高めよう
本記事では、機関投資家の意味や種類、投資の種類、株主割合や企業との関係性について詳しく解説しました。
企業が機関投資家と協働することは、企業価値を高め、自社の持続的成長を促進します。また、機関投資家が投資を行う企業への投資は、個人投資家や一般の株主にとっても、株価の安定性につながり、中長期的リターンを享受しやすいメリットがあります。
特に企業がスチュワードシップ・コードを受け入れることで、企業は機関投資家との「目的を持った対話」(エンゲージメント)を通じ、企業価値向上に大きく高めることができます。