投資家が投資企業を決めるときの情報源は、株価チャートや四季報、投資専門雑誌などが一般的ですが、企業が株主・投資家に向けて発信している「IR」も投資先を決める上で重要な役割を担っています。
例えば新型コロナウイルスは、企業にとってどのような影響をもたらし、事業売上はどう動いたか、その対策をどうするのかなど、企業が積極的に開示することで株主からの信頼を得ます。投資家にとっては他の情報源よりもいち早く、投資先の企業情報を知ることができる貴重な情報と言えるでしょう。
この記事では企業のIR担当者に向けて「IR」の基礎知識から取り組み方、企業事例を解説します。御社のIR活動に役立ててください。
IRとは
IRとはInvestor Relations(インベスター・リレーションズ)の略で、企業が株主や投資家に向けて経営状態や財務状況、今後の計画、社会貢献活動など投資の判断に必要な情報を提供する広報活動を指します。
従来は、機関投資家や企業の投資担当者、報道関係者などの専門家向けに行われていましたが、近年では個人投資家の数も増え、正当な評価を得るために企業は迅速かつ幅広い情報開示が求められています。
一般社団法人日本IR協会が実施したアンケート(2021年「IR 活動の実態調査」)によると、対象企業1,032社のうち977社(94.7%)の企業がIR活動を実施していると回答しています。多くの企業にとってIR活動を行うことは経営戦略の一つとして重要視されています。
企業がIR活動を行うべき理由
企業がIR活動を行う理由として、法律や取引所の規則で義務付けられていることも挙げられますが、自主的に行う場合ではどのような理由があるのでしょうか。ここでは企業がIR活動を行うべき理由を解説します。
企業がIR活動を行うメリット
企業がIR活動を行うメリットは大きく2つあります。
- 経営状態を開示することで事業に必要な資本を獲得する
- 株主・投資家から異なる意見をもらい経営戦略に役立てる
まず、企業が事業を行うには運転資金(投資)が必要です。株主・投資家から支援してもらうことで資金を得て、企業が社会に果たすべき責任を全うします。支援してもらうためには、現在の経営状態や財務状況、取り組んでいる活動などを積極的に開示し、株主・投資家からの信頼と投資対象としての評価を得る必要があります。
次に企業がIR活動を行うことで、株主・投資家に経営戦略を理解してもらうことができます。株主・投資家との信頼関係を築きコミュニケーションをとることで、経営戦略上での異なる意見やアドバイスを得ることも可能です。
近年では株主総会を株主の対話の場として位置付け、建設的なコミュニケーションが行われるようになってきています。例えば2021年6月に開催された任天堂の株主総会では、役員が「好きなゲームはなんですか?」という質問に答えるなど、カジュアルなイベントとして企業と株主の仲を深める場へと変容しています。
株主・投資家は企業のIR活動をどう見ている?
株主・投資家にとって企業が発信するIR情報は、チャートだけでは読み取れない企業活動を知る重要な情報源です。主に「経営の安定性」「事業の業績」「今後のビジョン」をポイントに投資の判断材料としてIR情報が細かくチェックされます。
例えば以下のような項目です。
- 安定的な利益を上げているか→貸借対照表
- 直近1年の経営成績→貸借対照表
- 事業別の売上→事業別の売上高
- 社内制度や社外活動→サステナブル活動
- 今度の経営戦略→中長期経営計画
これらのIR情報を単純にホームページに掲載するだけではなく、動画でわかりやすいように株主・投資家へわかりやすいように伝えることも大事です。
IR活動の取り組み方
IR活動の重要性を理解したところで、実際に取り組むには何をすれば良いのか解説します。
IR活動を担う部門は広報が一般的?
IR活動が株主・投資家向けの広報活動と言われることから、各部門の中では広報がその役割を担うべきだと思われがちです。しかし、一般的な広報はマスコミやメディア関係者に向けて情報発信を行うもので、対象者との関係性を高める点では似ていますが、役割は全く異なるのです。
IR情報の重要性が高まる近年では、専門のIR部門を設置する企業も増えていますが、数字に関することは財務部や経理部、経営全体に関わることは経営企画部など、各部門ごとに分担して取り組むケースがほとんどです。
企業ホームページや株主向け広報誌などで文書を開示する
IR活動の取り組み方の一つは、企業ホームページにIR専用ページを設け、経営状態をまとめた文書を開示することです。従来では株主に向けた広報誌や専門雑誌が主流でしたが、インターネットが普及した現在では、タイムリーに情報を知ってもらえるWEBでの公開が有効的です。
積極的にIR活動を行っている企業では、動画配信に注力しており、文章や画像だけでは伝わりにくい情報を動画でフォローしています。
企業説明会や決算説明会を実施する
株主・投資家と対面して企業説明会や決算説明会を実施することもIR活動の取り組みです。企業側が一方的に説明するのではなく、株主・投資家からの質問に応えることでより深く自社の魅力を伝えることができます。
これまでは会場を借りて説明会を開催するのが主流でしたが、新型コロナウイルスの影響でオンラインでの開催に注目が集まっています。人の密集を避けるため、説明会をライブ配信で行ったり、録画したものを動画で公開するなど、その日に参加できなかった人への配慮も可能になることから、オンライン説明会の需要は益々高くなるでしょう。
株式会社ウィルズでは「オンライン決算説明会」のサポートを行っています。オンラインでの準備や段取りなどきめ細かく支援しております。詳しくはこちらのページをご確認ください。
IR活動の注意点
IR活動で注意すべき点は2つあります。
一つは企業情報のどの部分をどういうタイミングで開示するか見極めることです。株主・投資家にとってIR情報は投資判断の材料になるため、情報が多ければ多いほど判断しやすくなります。しかし、企業がその要望に応えるために情報の頻度を上げてしまうと、内容が希薄になりやすく、逆効果になることもあります。また、開示するタイミングも経営戦略に沿って計画的に行うことが重要です。
もう一つは、IR活動は株価を上げる目的ではないことです。もちろん経営戦略を開示することで期待値を上げ、それが株価に影響することもありますが、IR活動は企業情報の透明性を示し、株主・投資家との信頼関係を高めることが目的になります。
信頼関係を築くことで継続的な資金調達が可能になり、企業が成し遂げたい事業を推進させることができます。目的を見失わないように注意しましょう。
IR活動の企業事例
ここでは、IR活動の企業事例を2つ紹介します。
日清食品ホールディングス株式会社のIR活動
日本中でお馴染みのチキンラーメンやカップヌードルなどの食品を展開する「日清食品ホールディングス株式会社」では、現在の株価情報から財務・業績情報などIR活動を積極的に行っています。
IRの資料をまとめたIRライブラリーでは、過去の資料がアーカイブされているため、決算短信、決算説明会などを遡って知ることができます。サステナビリティにも力を入れており、日清食品ホールディングス株式会社では「資源」と「気候変動」の2つの問題に取り組んでいます。
フジテック株式会社のIR活動
出典:フジテック株式会社
エレベータ・エスカレーターなどの都市空間移動システムの専業メーカー「フジテック株式会社」では1分でわかるフジテックや業績の推移をグラフで表示するなど、閲覧する人がわかりやすいように情報が整理されています。
企業説明会を動画で紹介し、期ごとに発行される株主通信がデジタルブックとして、誰でも見られるように公開されているなど株主・投資家への配慮が施されたIRです。
IR活動を通して投資家の信頼を高めよう!
IRは株価チャートや広報誌では伝えきれない鮮度の高い情報が詰まっています。株主・投資家にとってもリアルタイムに情報がインプットできる宝の宝庫と言えるでしょう。
企業はIR活動を通じて、現在進行形で支援している株主との関係値を高め、安定株主となってもらえるように、ポジティブ・ネガティブな情報を積極的に開示することが重要です。木企業のホームページでIRを公開する場合、単に文章を掲載するのではなく、閲覧者がわかりやすいような情報設計や図解、動画配信などを充実させることもIR活動の一環です。
IR活動は株主・投資家との信頼値を高める重要な経営戦略です。株式会社ウイルズでは株主・投資家の状況を管理し、分析できる『IR-navi』を提供しています。より信頼を高めるためには、株主・投資家一人ひとりとの対話が必要です。そのためのツールとして『IR-navi』を活用してみてはいかがでしょうか。